◆◇ 指先から溢れる愛情


なんとなく、意識が浮上したのがわかった。目を閉じたまま、暗い視界のままでぼんやりと朝が来たことを知った。起きたらまずカーテンを開けて、ジロちゃんのことを起こして、それからジロちゃんの着替えを手伝いながら私も着替える。いつもの流れだ。上手くいけば二十分、いや三十分で済むだろう。

ああ、朝御飯の準備もしなくては。今日は休日だからだらけてしまいたいけれど、朝御飯はしっかり食べないと駄目だってジロちゃんのお母さんから口を酸っぱくして言われているからちゃんと仕事を勤めなければならない。

でも、眠い。春眠暁を覚えずとはこのことか。このぬくぬくとした優しい環境のまま、夢の中へと再び旅立って行ってしまいたい気分。起きるのが面倒になってしまって横に寝返りを打つとくすくす笑う声が聞こえた。この場には私とジロちゃんしかいないし、私が笑ったわけではないとなると当然ジロちゃんが笑ったんだろう。

「名前ちゃん」

この声はやはり確実にジロちゃんだ。寝惚けて笑ったのかと思ったが、何度も甘い声で私の名を呼んでいるから本当に目が覚めているようだ。名前を呼ぶ度私の鼻を指先でつついている。

ジロちゃんが私よりも先に起きるなんて、それこそ空から槍が降ってきてもおかしくないくらいの天変地異。起きて「ジロちゃん自分から起きれるなんて‥‥よく出来ました!」と褒めて喜びを分かち合いたい気持ちは山ほどあったけれど、今日は随分睡魔が強力なようで目を開ける気になれない。

「名前ちゃん寝顔かわE」

ジロちゃんがハートマークをめいっぱい飛ばしながら私を呼ぶのをBGMに頬を緩めながら眠りの縁に落ちようとすると、いつまでも起きない私を不満に思ったのか、思い切り鼻を摘ままれた。

「っ、ジロちゃん!」

目を瞑ったままジロちゃんの手首を掴んだ。摘まむのを止めさせたのはいいけど離す瞬間に力を込められて潰された鼻が若干痛いんだけど、わざとなら怒ってしまいたいくらいだ。ケラケラ笑うジロちゃん。見なくたって悪戯っ子のような可愛い顔をして無邪気に笑っていることはわかる。

それでもまだ目を開ける気になれなくて、悪戯されないようにジロちゃんに背を向けた。こうすれば何も出来ないだろう。っていうかもう一人で起きてカーテンでも開けてくれれば私も頑張って起きれるんだけど、あのジロちゃんが自力でベッドから出られるわけもないのか。やっぱり褒めるのはまた今度にしようかな。

「名前ちゃん、さみC」

今度はツンツンと背中をつつき始める。この眠気がなくなれば喜んでイチャイチャするんだけどね。ごめんねジロちゃん、今日は無理です。

深く呼吸をして丸まると、ジロちゃんが背中をなぞり始めたのがわかった。眠ろうと思うもそれが気になってなかなか夢の中へは旅立てない。ああもうどうしたらいいの!二度寝はよくないってことなのかな。でも身体が怠いし、頭はぼーっとするし、二度寝なんて何ヵ月振りなのってくらいお久しぶりだから眠気に身を委ねたいんだけど。

「すーき!」
「ジロちゃん」
「ラーブ!」
「ジロちゃん」
「今何て書いたかわかった?」
「‥‥名前ちゃん好き、ハート」
「へへっ、正解だC!」

ジロちゃんの可愛さに根負けした。眠りたいと言っている身体をなんとか気力で起こして上半身を起こした。あー、怠い。でも折角ジロちゃんが起きてるんだから、朝からスケジュールいっぱいにして充実した一日にすることが出来る。よし、なんとか目をこじ開けよう。うとうとしながら寝癖のついた髪を撫で付けていると薄暗い視界がようやくはっきりしてきた。よし、なんとか起きれそうだ。

「ジロちゃん‥‥えっ、ジロちゃん?」

横を見ればいったいどのタイミングで寝たのか、すやすやと寝息を立てるジロちゃんがいた。あんなに私に悪戯してたのにそんな急に眠れるものなのか。いやに静かだと思ったら‥‥折角頑張って起きたというのに。ため息をつきつつも、可愛らしく微笑みながら眠っているジロちゃんを怒る気には到底なれなかった。

悩んだ末に、結局私も二度寝することにした。ジロちゃんの方を向きながらほっぺたをつつく。ぷにぷにと柔らかい感触に癒されながら、目を閉じた。

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