_実習帰りだと言う滝夜叉丸は、普段の滝夜叉丸らしからぬ満身創痍の姿で体育委員会の活動に遅れてやってきた。
_そんな滝夜叉丸の姿を見た時友や皆本は初め絶句して、それから我に返ると慌てて滝夜叉丸に駆け寄って小鳥のようにピーピーと騒ぎ出した。滝夜叉丸先輩一体どうしたんですか、ああお顔が! 先輩あちこち怪我してとても痛そうです大丈夫ですか!
_慌てふためく後輩を軽くあしらいながら滝夜叉丸は次屋に目配せをした。後輩を控えさせるよう、と。その次屋はというと、こちらも滝夜叉丸の風体に驚いて、僅かに離れた場所でぽかんと滝夜叉丸を見ていた。
_平素己でも吹聴しているとおり滝夜叉丸は大層優秀な忍たまだったので、滝夜叉丸が実習から怪我をして帰ってくることなど未だにかつてなかったのだ。後輩たちの驚きたるや如何に。
_しかし当の滝夜叉丸はボロボロな外見に反し上機嫌で「今日の実習も一番だったのだ」と誇らしげである。これだけの傷を負ってなお一番だったというのだからやはり滝夜叉丸は優秀なのだろうが、その言葉に次屋は呆れてしまった。
_ようやく滝夜叉丸たちに歩み寄ると、次屋は気安い口調で「何してんすかあんたは」と言った。
「委員会に来る前にまず医務室でしょうに」
「帰りが少し遅くなってしまったからな。お前たちに早く顔を見せて安心させてやろうという私の優しさだ!」
_そうは言うが、そもそも後輩たちは滝夜叉丸の失敗など想像もしていなかったので、余計に不安を煽ったことになる。
_しかし後輩たちの顔を見て安心したのはむしろ滝夜叉丸の方のようで、滝夜叉丸は縁側にペタンと座り込むと、そのまま立ち上がれなくなってしまった。
_それを見て次屋は時友と皆本に保健委員を呼んでくるよう指示を出した。ハイ! と元気良く返事をすると、二人は素早く姿を消して医務室へ走った。
_次屋は滝夜叉丸の隣に座り、傷の具合を見た。ざっと見て目立った怪我はないが、打撲や細かな切り傷が顔や腕に多く出来ていた。
「あーあ、こんなに傷作っちまって」
「む。多少ドジは踏んだが、実習の成功は成功だ!」
_ムキになる滝夜叉丸の言葉を次屋は「はいはい優秀優秀」と適当に聞き流す。
「普段煩いくらいその美しいかんばせとやらを自慢しているくせに」
「真実だ! この滝夜叉丸の美しさ、学園で右に出る者はいない! 立てば芍薬座れば牡丹、歩く姿は百合の花、という言葉もあるように、」
「はいはい美しい」
_四年も同じ委員会に所属していれば滝夜叉丸のあしらい方も自然と身につくというものだ。それはお互い様で、次屋の適当な相槌を気にすることなく滝夜叉丸は一人マシンガントークを繰り出している。
_次屋もそれらの内容には耳を貸さず、傷がついてしまった滝夜叉丸の肌をじっと眺めていた。
_ああなんと惜しいことだろうか。
_確かに滝夜叉丸の顔はこの学園内の誰よりも美しい。決して口にはしないが次屋は滝夜叉丸の整った顔立ちが好きだった。
_それが今や傷だらけになってしまっているだなんて。
_もし滝夜叉丸の傷が敵、あるいは味方に付けられたものだとしたら、そいつただではおかんな、と次屋は少々物騒なことを考えた。
_先輩と言えど、あまり無茶はしないでもらいたいものだ。
「どうすればあんた、俺だけのものになるのかなあ」
_ポツリと呟いた次屋の言葉はしかし、未だ続いていた滝夜叉丸の自画自賛に紛れて滝夜叉丸の耳には届かなかった。
_その顔が何だか小憎たらしくて、むに、と次屋が滝夜叉丸の頬を抓ると、どこからともなく現れた時友と皆本が保健委員の到着を告げて、次屋は滝夜叉丸の怒鳴り声を聞かずに済んだ。


20120211

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