_大学生パロ次→←滝


_開きっぱなしだった扉を手の甲で叩く。振り返った滝夜叉丸は研究室に引き込もっているとは思えぬほどきちんとした身なりをしていた。
「三之助か」
_顔を綻ばせる彼を見て、愛しさを感じてしまったことに三之助は謎の敗北感を味わう。手にしていた袋を持ち上げて見せる。
「差し入れ」
「おお。いつもすまんな」
_滝夜叉丸は嬉しそうに袋を受け取った。テーブルの上を手早く片付けると、「ちょうど作業も一段落したことだ、有り難く休憩にしよう」と言ってお茶を淹れるため、白衣の裾を翻した。
「コーヒーでいいか」
「ども」
_ミルクをたっぷりと注がれ、柔らかい色になったコーヒーが差し出される。滝夜叉丸自身はブラックコーヒーを手に、さっさとテーブルに着いた。三之助はその向かいに腰を下ろす。
「おお! このドーナツは、最近話題の。昨日テレビでも特集されていたぞ、随分並んだんじゃないか?」
「そうなんすか? 滝夜叉丸先輩、好きかなと思って買ってみたんすけど」
_ちらり、三之助はさりげなく滝夜叉丸の顔色を伺う。砂糖やチョコレートで可愛らしくデコレーションされたドーナツを眺める滝夜叉丸の目はきらきらしていた。
「食べてみたかったんだ。ありがとうな、三之助」
「……喜んでもらえたんなら、良かったです」
_三之助は密かに安堵の息を吐く。「三之助はどれにする」楽しげに尋ねる滝夜叉丸に、「先輩からどうぞ、好きなの選んでください」と三之助は微笑んだ。


_グルメ雑誌を開いていた左門は「三之助、次はこれなんかどうだ!」とある記事を指差した。新装オープンしたという喫茶店の紹介で、持ち帰りも可能なベーグルが絶品だという。
「へえ、いいかも。チェックだな」
_応じて、三之助は早速喫茶店の位置を調べ始めた。
「そういや左門、ドーナツの情報サンキューな」
「どういたしまして。役に立ったのなら良かったぞ!」
_そこで、それまで携帯を弄りながら二人のやり取りを聞いていた作兵衛が顔を上げた。呆れた顔で三之助を見る。
「三之助、マジであのドーナツ屋に行ったのかよ」
「おう」
「テレビで取り上げられた次の日じゃあ、混んでただろう」
「あー、まあ一時間くらいは並んだかな?」
_ようやる、と作兵衛は改めて呆れたが、「でも、滝夜叉丸が喜んでくれたし」と幸せそうな友人を見ていると、それ以上のことは言えなくなった。
「つーかさ、毎度毎度差し入れなんかしなくても、普通に会いに行けばいいだろ」
_再び携帯に目を落とした作兵衛は事も無げに言う。三之助は一瞬言葉に詰まり、それから言い訳のようにもごもごと呟いた。
「……だって、差し入れでもしないと、会いに行く口実がないだろう」


「おやまあ滝夜叉丸、今日のご飯はそれだけ?」
_勝手知ったる様子で研究室に入り込んだ綾部は、春雨スープ一つ前にした滝夜叉丸を見て首を傾げた。滝夜叉丸の隣に座ると、持ち込んだハンバーガーとポテトを早速取り出す。
「昼間三之助が来て、一緒にドーナツを食べたんだ。摂取カロリーを調整しなければ」
_どうせ研究三昧で籠りきりだというのに、まったくよくやる。相変わらずの美意識の高さに半ば感心しながら、綾部自身はカロリーなぞ頓着せずに、ハイカロリーなファストフードにかぶりついた。
「滝夜叉丸、普段は間食しないくせにねえ」
_そんなに気にするなら断ってしまえばいいじゃないと綾部が言うと、滝夜叉丸は気まずげにしかめ面を作った。
「……だって、そうでもなければ、三之助に会う口実がなくなってしまうではないか」
_綾部は「ふーん」と適当に応じながら指先についた塩を舐めとる。
_まったく、横目で見た恋する横顔の可愛いことったらない。


20140312

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