_その闖入者は面の皮厚く堂々とやって来ると、元気に片手を挙げて「やあやあ! 手当てしてくれ!」と宣うた。その後、闖入者、花房牧之介はその後医務室を見回してようやく「あれ、新野先生はいらっしゃらないのか」と首を傾げま。
「新野先生はお出かけです〜」と答えるのは、そのとき一人で当番をしていたのは伏木蔵である。「なあんだ」とがっかりしている牧之介に向かって、「僕でよろしければ手当てしますよ。こちらへどうぞ」と声をかけた。
「そうか! じゃあ頼むぞ!」
_大きな声でガハガハと笑いながら足音を立てて入室し、牧之介は伏木蔵の正面に腰を下ろした。着物の袖を捲った腕をずいっと差し出す。
「戸部新左ヱ門に勝負を挑もうとしたところ、石につまずいて転んでしまってな! 肘を擦りむいてしまったのだ!」
_しかも、その間に戸部先生は面倒事は御免だとさっさと去ってしまったらしい。
_至近距離での大声に、救急箱から綿を取り出していた伏木蔵は眉をひそめた。
「もう少し声量を控えてもらえます?」
「おお! すまんな、気を付けよう!」
_ボリュームのまったく変わっていない返答を受けて、伏木蔵は「うふふ、じゃあ手当てを始めますね」とうっそりと笑った。
「一等沁みるお薬を使いましょうね〜」
_傷口に塩を塗り込むつもりでたっぷり薬の染み込んだ綿を傷に押し付けると、牧之介はぎゃあっと叫び声を上げた。
「いたたたたっ! 痛いっ沁みるっ! おいお前!」
「お前じゃないです〜鶴町伏木蔵です〜」
「伏木蔵! ものすごく痛いんだがっ!?」
_円らな瞳にキッと睨まれ、伏木蔵はきゅんと胸が高鳴るのを感じた。
(なんてわかりやすく、素敵な反応を返してくれる人だろう!)
この場に他の保健委員か一年ろ組の生徒がいれば、「花房牧之介相手にときめくなんてどうかしているよ」と突っ込むところだが、生憎その場にいるのは伏木蔵と牧之介だけだ。
_瞳をきらきらさせた伏木蔵はおもむろに小瓶を取り出すと、中身の粉末を牧之介の腕に刷り込んでゆく。
「おいっ尋常じゃなくヒリヒリするぞ! それ唐辛子に見えるけど!?」
「ご名答、唐辛子の粉末です〜」
「何故!?」
_ぎゃあぎゃあ喚く牧之介は涙目だ。伏木蔵は牧之介のリアクションを一通り堪能したところで唐辛子の粉末をきちんと落とし、改めて腕に包帯を巻いてやった。
「はい、出来ました」
「う、うむ。ありがとう?」
「どういたしまして。是非またいらしてください」
_にこり、愛らしく微笑む伏木蔵の空気に呑まれ、牧之介は思わず頷いた。
_首を傾げながら医務室をあとにする牧之介の背中を見送りながら、次の機会にはすりおろした山葵を塗り込もうと伏木蔵は考えた。


20130804

「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -