_薬草を採りに裏山まで出向き、慣れたはずの道中に例のごとくさまざまな不運に見舞われて疲労困憊して戻ってきた左近を迎えたのは一つ上の先輩、数馬の笑顔だった。
「おかえり、左近」
「……ただいま戻りました」
_存在感が希薄で一見頼りなげな先輩であるのに、数馬に迎えられると言い知れぬ安堵を感じるのは一体何なのだろう。左近は荷を下ろし、不運の最中にも死守した花を数馬に差し出した。
「数馬先輩、お土産です」
「わあ、トリカブトだね。ありがとう」
_花を受け取り、数馬は微笑む。
「きれいだったから、数馬先輩に似合うかと思って」
_ごにょごにょと呟く左近を見て、数馬は「おやおや」と苦笑した。可愛い後輩の好意は何と言っても嬉しいのだけれど。
「トリカブトは有毒植物だよ。誤って食べると嘔吐・呼吸困難、臓器不全などから死に至ることもある。そのかわり、処方を間違わなければ生薬にもなる」
「知っています」
_数馬の講釈に左近は口を尖らせた。知識として知っていたからこそ、花だけでなく根ごと摘んで持ち帰ったのだ。数馬はちっとも悪びれた様子もなく「ごめんごめん、さすがい組だね」と嘯いた。
_薬草の青色が染みついた数馬の指先が、トリカブトの花をつつく。
「トリカブトには媚薬としての効果もあるそうだけど、ごめんな、僕はこの毒では死なないし、恋に落ちてもやれないよ」
_何気ない響きを持って投げかけられた言葉に左近は一瞬言葉を失い、その直後「知っています!」と顔を真っ赤に染めて乱暴に声を上げた。
「そう?」と素知らぬ顔で、数馬はあえて後輩の顔色に気付かない振りをする。
「さて。このトリカブトも有効に使わせてもらうね。弱毒処理をしよう。左近、準備して」
「……はい」
_一年の差がどうしてこんなにも大きいのか。上手くあしらわれてしまい、左近は密かに肩を落とした。
_準備のために立ち上がる際に左近がちらりと横目で伺うと、根に猛毒を秘めた青紫色の可憐な花はやはり、数馬によく似合っていた。


20130715

「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -