_ほう、と吐いた息が白かった。それだけの変化で「冬だなあ」という実感が湧いてきて、ぴゅうぴゅうと吹く風が途端に体にまとわりついてくる気がした。
「さむっ」
_辺りに溶けていく白い吐息の行方を見送りながら、きり丸は身を竦めた。食堂のおばちゃんに甘酒でも作ってもらおうかな。そう思案していると、前方に冬景色にも生える髪色を発見した。乱太郎だ、と思った瞬間にきり丸は駆け出していた。
「乱太郎!」
_近付いてくる足音に気付いて振り向いた乱太郎に、走る勢いそのままに抱きついた。「うわ!きりまる?」と突然の抱擁に目を白黒させた乱太郎だが、きり丸が「寒い」と呟けばすぐに落ち着きを取り戻し「急に冷え込んできたよね」ときり丸を抱き返した。
「さっき息を吐いたら白くなったぜ」
_そう教えてやると、すぐに乱太郎も大きく息を吐いて「本当だ」と笑った。しばらく二人で息を吐きながら「白いね」「白いな」と他愛もなく言い合う。
「最近は朝晩冷えるものね。お布団をしっかりかけて寝なくちゃ」
「しんべヱは掛布団を吹っ飛ばすからなあ」
「いっそのこと、三人で一緒に寝ようか」
「そうだな。その方があったかいし」
_そうしようそうしようと二人で頷く。そう言えば、いつも一緒のまん丸いもう一人はどうしてここにいないのだろう。
「なあ、しんべヱは? 食堂のおばちゃんに甘酒作ってもらおうぜ」
「いいね。探しに行こうか。しんべヱがいればきっともっと暖かくなるよ」
_乱太郎の言葉にうんと頷いて、ごく自然にきり丸は乱太郎の手を取った。
「長屋にはいなかったよ。委員会かな?」
「じゃあ用具倉庫に行ってみるか」
_手を繋ぎ、ぴったり身を寄せ合ってしんべヱを探す二人を通りすがりに見つけて、冬だというのに腕まくりでチャンバラをしていた団蔵と虎若は怪訝な顔をした。
「おーい乱太郎、きり丸。二人とも、何でそんなにくっついて歩いてんの?」「歩きにくくないか?」首を傾げる団蔵と虎若に、「だって寒いから」「しんべヱもいないし」と二人は事もなげに答える。ここにいるのがい組であれば「意味が解らない」とつっこみが入るところだが、この場に集まったのは皆は組、団蔵も虎若も「なるほど」とあっさりと納得した。寒くてしんべヱがいないときにくっついているのは、は組の中では常識らしい。
「しんべヱを探しているんだけど、二人とも見なかった?」
「見てないなあ。虎若は?」
「委員会の仕事があるって喜三太が言っていた気がするな。用具倉庫じゃないか?」
_乱太郎ときり丸は顔を見合わせた。「やっぱり」「用具倉庫だね」と頷き合い、ただでさえ身を寄せているのに二人の顔は睫毛が触れそうなほどに近付く。団蔵が「お前らちゅーでもしそうな距離だな」と言ったが、当然のごとく無視された。
「ありがとう。用具倉庫に行ってみるね」
「それから、お前ら二人とも汗くせーぞ。ちゃんと水浴びしろよ」
「あっ水浴びしたらすぐに体を拭いて温かくするんだよ! 風邪をひかないようにね!」
_それぞれ繋いだのとは逆の手を振って、乱太郎ときり丸は用具倉庫のある方向に歩き出した。その背を見送って、「あいつら、仲良いよな」「特に冬場はずっとくっついてるし」「それにしてもおれたち、そんなに汗臭いかな?」「風呂行くかー」と団蔵と虎若もまた風呂を目指して踵を返した。

_備品の在庫確認の仕事を終え、倉庫から出たしんべヱは、一緒に委員会の当番をしていた喜三太と同時に「さむーい!」と震え上がった。
「倉庫の中はまだあったかかったのにー」
「ナメさんたちも凍えちゃうよ」
_喜三太は自分の手よりも先にナメツボをさすり、何とかナメクジたちを温めてやろうと壺を抱きしめた。
「あ! しんべヱがいた!」
_声が聞こえるのが早いか、しんべヱは駆け寄ってきた乱太郎ときり丸に左右から挟まれた。ぎゅっぎゅとおしくらまんじゅうのように押し合う三人を羨ましそうに見て、「ぼくも金吾のところに行こーっと」と言って喜三太はふらりとその場を離れる。
「やっぱりしんべヱはあったかいなあ」
「なになに、どうしたの」
「食堂のおばちゃんに甘酒作ってもらおうぜ」
_急な二人の突撃に驚いていたしんべヱも甘酒と聞いた途端に目を輝かせ、北風に凍えていたことも忘れて俄然元気を出した。
「甘酒! いいね!」
_そうなるとしんべヱが二人を引きずるような勢いで歩き出す。意気揚々と先を行くしんべヱを見て悪戯っぽく顔を見合わせた二人は、手を繋いだままもう一度しんべヱに抱きついた。甘酒に向かってまっしぐらなしんべヱはそれを邪険にする様子もなく、二人を左右にくっつけたままずんずんと歩いている。「しんべヱ、男前だなー」を笑い合って、三人は体温を共有した。


20130322

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