_七松先輩、枝毛が目立ちますよ。
_きっかけは、滝夜叉丸のその一言だった。七松は何のことか咄嗟に判断しかねてきょとんと瞬いた。
「枝毛?」
「髪の毛ですよ。手入れをしていないでしょう」
_サラストナンバーワンを誇る仙蔵や極端に身なりを気にするナルシストの滝夜叉丸でもない限り、いちいち髪の手入れをしている忍たまはいない。七松もその例にもれず、髪の手入れなど入学してからこの方気にしたことがない。
_今更手入れの仕方を学ぶ気にもならないし、何より面倒だ。
_美しい髪の重要性がどうのサラストナンバーツーの自分の手入れ方法はどうだと一人で語っている滝夜叉丸の横、七松は考えることなく答えを出した。
「よし。切ろうか」
「七松先輩、私の話を聞いていました?」
_無論七松は滝夜叉丸の話を端から聞き流していた。ポリシーがあって伸ばしていたわけでもない。短いならそれはそれで楽だろう、と七松は懐から苦無を取り出した。
_そのとき斎藤タカ丸が通りかかったのは偶然だったし、タカ丸の姿を視認した滝夜叉丸が「やべっ」という表情を浮かべたことも七松は気に止めなかった。
_結んだ髪の根元あたりで苦無を構えたところで、滝夜叉丸が何故だか大慌てで七松を制止した。「先輩、それは、止しましょう。今すぐ」
_七松が首を傾げている間に、二人に気付いたタカ丸が人好きのする笑顔で近付いてくる。
「七松くん、何しているの?」
_タカ丸と同学年である滝夜叉丸もいるというのに、七松を名指し。しかし七松は疑問に思うことなく、苦無を構えたまま屈託なく答えた。
「おお、斎藤タカ丸! 髪を切ろうと思ってな!」
_すると突然、七松の手から苦無が零れた。
_七松は地面に突き刺さった苦無と、相変わらずにこにこと気の抜けるような表情を浮かべているタカ丸を見比べた。
_戸惑ったのもほんの一瞬、タカ丸が目にも留まらぬ速さで苦無を叩き落としたのだと理解すると、七松は獲物を狙う目で笑い、舌なめずりをした。
「へえ。やるじゃないか」
_即座に間合いを取り、苦無をもう一本を構える。
「七松先輩! やめてください!」
_焦った滝夜叉丸の声が聞こえる。
_一歩踏み込み、タカ丸に斬りかかろうとしたその瞬間、七松の視界は反転し気付けば地面に転がされていた。
「七松くん、髪を大事にしなきゃ駄目だよ〜」
_地に伏す七松に馬乗りになって、タカ丸は七松の髪を鷲掴みする。
_声ばかりが相変わらず暢気である。七松が首をひねって背後を見上げると、目が合ったタカ丸はのほほんと微笑んだ。
「僕がカットとトリートメントしてあげるよ」
_有無を言わせぬその言葉に、七松はただただ素直に「はい」と答えた。


20130626

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