_101号室の扉へ今まさに合鍵を差し込もうとしていた伊助と、一部屋挟んだ103号室からちょうど出かけようとしていた虎若。それぞれの部屋の扉の前で出くわした二人は反射的に互いへ視線を遣り、目があった瞬間、同時に「あ!」と声を上げた。
「虎若!」
「うわ、伊助じゃん! 久しぶり!」
_そう声を掛け合って、ちょうど二人の中間地点になる102号室の前にどちらからともなく駆け寄った。
_伊助と虎若は高校の同級生である。高校卒業後、同じ大学へ進学していたことは互いに知っていたが学部が違えばキャンパス内で顔を合わせることもほとんどなく、久しぶりの再会であった。
「懐かしいなあ。虎若、このアパートに住んでいたんだ」
「うん、そう。って、もしかして伊助もこのアパートに住んでんの?」
_伊助が提げる買い物袋に目を留め、夕食の買い物帰りか、と当たりを付ける。虎若は「全然知らなかった」と再び驚きの声を上げたが、伊助は苦笑して首を横に振った。
「ううん、僕は住んでいないよ。ここに住んでいるのは僕の友達。僕は夕飯作りに来ただけだよ」
「夕飯作り? 何で?」
_虎若は首を傾げた。伊助は忙しい友人のため、二人分の食費を出してもらう代わりに夕食を作っているのだと手短に説明をした。それを聞くと、虎若は「ふうん」と相槌を打って納得したように頷いた。
「いいなあ、その友達。伊助、料理得意だったもんな。調理実習でも伊助だけ手付きがプロだったし」
「あれはお前たちが下手すぎたんだよ。虎若は自炊しているの?」
「うーん。カレーとかチャーハンとか、簡単なものくらいなら。でも料理するのも面倒だし、大体弁当とかスーパーの惣菜に頼っている」
「ええっ駄目だよ、栄養が偏るぞ」
_伊助の言葉に、わかってはいるんだけどなーと言って虎若は肩を落とした。授業にサークルにアルバイト、そもそも虎若は料理自体そんなに得意ではないし、どうしても食事が疎かになってしまうのだ。その様子を見て、「じゃあさ」と伊助は言う。
「今度、虎若の分の夕飯も作ってやろうか」
「まじで! いいのか?」
_虎若は目を輝かせた。まだまだ食べ盛り、弁当や惣菜も決して不味くはないが、家庭料理の味が恋しくなることだって多々ある。その度にいちいち実家に帰るのも憚られ、気分転換にとインスタント食品に手を出して気を紛らわせたりもしていたが。
「今日は二人分の食材しか買ってないから無理だけどさ。ほとんど毎日作りに来ているから、食費を出すなら作ってやるよ。二人分も三人分も、作るのにそう変わりはないし」
「出す出す! お願いします!」
_基本的に伊助は料理が好きだったし、頼られるのも嫌いではない。「楽しみだー」とはしゃぐ虎若を見ていると、伊助の気分も軽くなる。
「明日の夜はどう?」
「バイトでいないなあ。でも、明後日なら家にいるぜ」
「そう、じゃあ明後日かな。何かリクエストとかある?」
「そうだな、うーん、肉じゃが!」
_家庭料理の代表だろ、と虎若が言うと、「ベタだなー」と伊助は笑った。
「いいよ、肉じゃがね」
「やった!」
_拳を上げて喜んだ虎若は、ふと腕時計に目を留め、自分がアルバイトへ向かおうとしていたことを思い出した。
「あっやべ、そろそろ行かないとバイトに遅刻する」
「これからバイトか。頑張れよ」
「おう、明後日楽しみにしてるよ」
_手を振って二人は別れ、一人は夕食作りのためアパートの部屋へ、一人はアルバイト先へ向かうためアパート横の駐輪場へと向かった。


20121101

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