!カニバリズム的表現あり



_当て所なく、しんべヱと二人きりで歩き続ける。
_駆け落ちみたいだ、と僕は思って一人赤面したけれど、恥ずかしくて口には出さない。
「お腹が空いた」と言って不意にしんべヱは歩みを止めた。
_僕はしんべヱが空腹でいると何故だか不安になる。満ち満ちた彼のまあるい腹が、頬が、途端に萎んでしまうのではないかという恐ろしい想像に襲われるのだ。
_けれどこのとき僕の手元には菓子も握り飯もなく、しんべヱも持参した分を既に食べ尽くしたあとだった。
_辺りは森、生き物の気配すらないこの場所には見渡す限り食べられそうな木の実なんかも見付からず、「お腹空いたよう」と再度空腹を訴えてべそをかき出したしんべヱを見て僕は俄に慌てた。
_僕がしんべヱのようにまるまると肥えていたら、せめてもうほんの少しでも僕の身体に肉が付いていたなら、僕の身体をちぎってしんべヱに食べさせてやることだって出来たのに。
_そう思っても僕の身体が皮と骨ばかりなのに代わりはなく、そこで僕は僕の心臓をしんべヱに差し出した。
「お腹の足しに、なるといいんだけど」
「いいの、怪士丸」
_しんべヱは喜んで受け取ると、躊躇うことなく僕の心臓をむしゃむしゃと食べた。
_豪快な食べっぷりに、思わず見惚れてしまう。僕は幸せそうに物を食べるしんべヱを眺めるのが好きだ。
_息つく間もなく僕の心臓を平らげたしんべヱは、満足げに自分の腹を撫でた。
「ごちそうさまでした。ありがとう、怪士丸」
「お腹いっぱいになった?」
「うん」
_しんべヱはにこにこ笑って頷いた。それが嬉しくて僕も一緒に笑った。
「行こうか」
_そう言ってしんべヱは僕の手を引き、歩みを再開させた。何処へ、なんて僕は尋ねない。これが夢だと知っているから。
「怪士丸は僕に心臓をくれたね」
「うん」
「一番大事なものなのに」
「僕の一番大事なものは、しんべヱだよ」
_僕がそう言うと、しんべヱは嬉しそうに笑った。笑うとしんべヱの身体中のお肉も一緒にたぷたぷ揺れる。
「それなら怪士丸には、僕の全部をあげるね」
_そう言ったしんべヱの笑顔があまりに男前で、空っぽになったはずの僕の心臓がきゅんと鳴った。


20121003

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