_公園から乱太郎の住むアパートまでの道のりを、きり丸は黙ってついてきた。乱太郎も特に何を尋ねるでもなく、冷蔵庫の中身の思い返し今晩の夕食の献立に思いを馳せながら黙々ときり丸を先導した。
_公園から徒歩五分。築二十年のアパートは決して広くはないが、風呂付きでなかなか住み心地が良いので乱太郎は気に入っている。最寄り駅までは自転車でも十分かかるが、その分スーパーが近くにあるので不満はない。
_そのアパートの一階102号室が乱太郎の部屋である。
_貧乏学生の乱太郎は基本的に持ち物が少ないので部屋の割に広々としている。乱太郎が先に入って「どうぞ」と促すと、きり丸は小さな声で「お邪魔します」と言ってから靴を脱いだ。案外、礼儀はしっかりしているようだ。
_部屋に上がって荷物を下ろすと、乱太郎はまずきり丸のために風呂を入れてやった。薄汚れていたきり丸の衣服を剥ぎ取り、洗濯機を回している間に問答無用できり丸を風呂場に放り込む。
_シャワーの音が聞こえるまで待ってようやく安心し、その間に乱太郎は冷蔵庫の有り合わせの材料で簡単な夕食を作った。
_風呂を浴び、乱太郎の服を借りて出てきたきり丸はいくらかこざっぱりとしていた。首にタオルをかけ、改めてキョロキョロと部屋を見回しているきり丸に「ご飯出来ているよ」と乱太郎が声をかけると、きり丸は少し驚いたように乱太郎を見た。しかし結局何も言わず、乱太郎が示した場所に大人しく腰を下ろした。
_乱太郎と向き合って小さな座卓での食卓を囲っている間もきり丸は終始無言だった。
_ただ、乱太郎が作った蓮根のキンピラを食べたときにようやく一言「……美味しい」と呟きを漏らした。
「良かった。たくさんお食べ」
_気を良くした乱太郎は自分の分もせっせときり丸の皿によそってやる。誰かと夕食をともにするのは乱太郎自身久しぶりであり、ほんの少し気分が高揚していた。
_きり丸は「うん」と素直に頷いて、また黙々と料理を口に運んだ。
_夕食を食べ終えると、きり丸は床にコロンと横になり、そのまま身体を丸めて眠ってしまった。
_その身体に押し入れから取り出した毛布をかけてやり、乱太郎は「猫みたい」と声を上げずに笑った。実際、乱太郎にしてみれば自分と同じ年頃の若い男を連れてきたというよりも黒猫を一匹拾ったような気分だった。
_側にしゃがんで、乱太郎はきり丸の寝顔を眺める。疲れが滲み出た寝顔だ。そして、寂しそうな。
_きり丸の寝顔に自分の寂しさを投影して、乱太郎はきり丸の髪をそうっと指先で撫でた。黒々としていて、まだしっとり湿った毛並み。
_乱太郎はこの奇妙な同居人を、好きになれそうな気がした。


20120803

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