_委員会活動ですっかり遅くなってしまった。とうに放課を過ぎた昇降口に人気はなく、乱太郎はどうしたものかと雨の降る外を見つめていた。
_今朝は寝坊してしまったために朝の身支度が慌ただしくて天気予報をチェックする余裕がなく、乱太郎は傘を持ってきていない。
_しかもこんな日に限って、普段鞄の中に常備している折り畳み傘を忘れるという失態。
_いつまで眺めていても雨は止む気配を見せない。仕方がない濡れて帰るか、と溜め息一つ、乱太郎が一歩外へ歩き出そうとしたとき、乱太郎の横にきり丸が並んだ。
「よっ、乱太郎」
「きり丸。まだ帰っていなかったの」
「うん、委員会でな。乱太郎、もしかして傘ないの」
_乱太郎が神妙に頷くと、きり丸は呆れ顔をした。それから迷う素振りも見せず、「はい」と乱太郎に傘を差し出す。
「何?」
「何って傘だよ。俺は走って帰るから、使えよ」
_差し出された傘ときり丸の顔を交互に見比べ、乱太郎は目を丸くした。
「何言っているの。それじゃあきり丸が濡れちゃうじゃない」
「別にいいよ、俺は」
「よくない。風邪引くよ」
「そんな柔じゃないって」
_いいから、よくない、と二人で繰り返していると、押し問答をしていても仕様がない、ときり丸は乱太郎の手に傘を押し付け一人外へ飛び出そうとした。
「待って」と慌ててきり丸の制服の裾を掴んで引き留め、ならば、と乱太郎は名案が浮かんだとばかりに表情を明るくした。
「確かきり丸、帰り道は私の家と同じ方向だったよね。一緒に帰ろう」
_乱太郎の提案に、きり丸は俄に焦りだした。「一緒に、ってお前なあ」
「ね、そうしよう。そしたら私もきり丸も濡れずに済むじゃない」
_そうしよう、そうしようと一人で納得し傘を開いている乱太郎に、きり丸はわざとしかめ面を作って見せる。
「じゃあさ、伊作先輩にでも送ってもらえば」
「先輩ならもう帰られたよ。ちなみに、先輩も傘を持っていらっしゃらなかったけど」
「……三反田先輩か川西先輩、そうだ伏木蔵は?」
「三人とも、それぞれにお迎えが来ていたよ」
「……」
「きり丸、もしかして私と一緒に帰るの、嫌?」
_黙ってしまったきり丸の顔を、乱太郎は不安げに見詰める。
_しゅん、と凹んでしまった乱太郎を見ると、きり丸は「ああもう」と頭をかき、乱太郎の手から傘を引ったくった。
「別に、嫌なわけじゃねえよ」
_照れの混じるぶっきらぼうな調子でそう言うと、傘を差しながら半分のスペースを乱太郎のために開けた。
「ほら、帰るんだろ」
_きり丸に促され、乱太郎はにっこり笑って傘に飛び込んだ。

_家路を辿る途中、雨足はより強くなってきた。
「きり丸、濡れてない? もっとこっちに寄りなよ」
「平気」
_いくら乱太郎が気遣ってもきり丸は素知らぬ顔をするばかり。
_傘を握るきり丸が細心の注意を払っているのか、それとも単に傘が大きいのか、乱太郎は少しも濡れていない。
_きり丸の肩を覗こうとしても、きり丸は乱太郎よりも背が高いので上手く確認することが出来なかった。
_きり丸が濡れてはいないか覗き込もうと乱太郎が身を寄せると、きり丸は僅かに身動ぎする。
_その動作を見て改めて互いの近さに気付き、乱太郎は頭上の傘と隣に並ぶきり丸を見比べた。
「そういえばこれ、相合い傘だね」
「今更かよっ」
「何だ、だからきり丸、恥ずかしがっていたの」
_にやにや、意地悪く笑ってやれば、きり丸は「恥ずかしがってない」とそっぽを向いた。
「相合い傘と言えば」乱太郎はどこかで聞いた言葉を不意に思い出す。
「相合い傘は濡れている方が惚れている方、って言うよね」
_それは相合い傘から連想した他愛のない言葉だった。しかしそれを聞いた瞬間「えっ」と声を上げ、きり丸の顔は真っ赤に染まった。
「えっ?」
_思いがけないリアクションに、乱太郎も思わず顔を赤くして歩みを止める。
_互いに赤面した二人が向き合う。
_見ると、きり丸の肩は、びっしょりと濡れていた。


20120625

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