「もう疲れた。あまりにも殺しすぎた。狂うのにも飽いてしまった」
_卒業してから再会までの長い長い彼の半生をその一言で締め、だから、と言って彼はそっと目を伏せた。
_それを傍らで黙って聞いていた男は彼の言葉が途切れるのを待って一言、バカタレ、と静かに彼に喝を入れた。
「お前は鍛練が足りんのだ。昔から現在に至るまで、いつだって」
_学園という絶対的な庇護下に置かれ忍ぶ術を学んでいた忍たま時代と変わらない男の物言いに、彼は目許を綻ばせた。
_白い肌には無数の細かい傷跡が散り、柔らかく皺の寄るようになった目だ。
「お前は変わらんな」彼が言う。
「お前の何が変わったと言うのだ」男は即座に言い返した。
_彼が微笑みを浮かべたまま黙ってしまったので、男はそれまでに比べていくらか優しい声色で彼に話しかけた。
「平気な顔ばかりしおって。涙の一つでも、流してみたらどうだ。少しは楽になるだろう」
_男の言葉に、
「お前が慰めてくれるとでも?」
_彼は悪戯っぽい口調で答え、返事を待たずに一人笑った。
_それから、いずれにせよ、と言葉を続ける。
「目玉はどこかに落っことしてきた。だから私はもう泣けん」
_彼は笑ってそう言った。
_彼の眼孔にはまあるい球体がきちんと収まっていたけれど、その二つの球体はもう像を結ばない。
「これが私の罪なのだ」
_彼はわざと芝居がかった物言いをした。そうして繰り返す。
「もう疲れた。あまりにも殺しすぎた。狂うのにも飽いてしまった。私はもう、疲れてしまったのだ、文次郎」
「ふざけるな」
_縋るように伸ばされた手を、しかし男はあっさりと振り払った。非情なまでに。
_男は言う。
「目玉なら、俺のを一つくれてやる」
_だから泣いて、泣いて、血反吐を吐いてでも生きろと言う、男の言葉は、呪い。
「お前だけがそう簡単に逃れられると思うな、仙蔵」


20120612

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