「冬は嫌いだ」
_そう言って、孫兵はしくしく泣いた。
_冬が来て愛しい生物たちがみな眠りについてしまうと、そのたびに孫兵はひどく悲しみ落ち込んだ。
_普段ジュンコを巻いている首筋は青白く、それが一層寂しげに見える。
_孫兵のために温かいお茶を淹れてやりながら、数馬は孫兵の話に耳を傾けていた。
_はい、と数馬が差し出したお茶を一口飲むと、あたたかい、と呟いてまた孫兵は大粒の涙を溢した。
「ねえ数馬、愛しいあの子たちのいない冬を孤独に過ごすくらいなら、僕もあの子たちと一緒に眠ろうと思うんだ。冬の間目覚めずに済むような睡眠薬はないかな」
_湯呑みを両手で包み、ほっこり湯気のたつお茶を見つめて孫兵が尋ねると、数馬は「あるよ」とあっさりと頷いた。
「本当に?」
_そんなものはないと一笑されて終わるものだとばかり思っていた孫兵は、目を丸くする。
_見詰められた数馬は、「本当に」ともう一度力強く頷いた。
_ちょっと待って、と言って数馬は立ち上がった。すぐに、引出しから小さな包みを持って戻ってくる。
「これだよ」
_包みの中には金平糖によく似た丸薬が数個入っていて、揺らすと微かな音を立てた。
_差し出された包みを大切に大切に受け取り、孫兵は夢見る表情でそれを眺める。
「ありがとう、数馬」
_すぐに眠ろう。目覚めたら、あの子たちのいる春だ。
_孫兵はわくわくして立ち上がった。
「眠るときはちゃんと暖かくするんだよ」
_にっこり、母親のように優しく微笑む数馬に「うん」と素直に応じて、孫兵は包みを片手に自分の部屋へ戻った。

_翌朝、いつも通りの時間に起床した孫兵は顔を洗いきちんと制服に着替えて、数馬の部屋へ向かった。その道すがら、廊下から見えるのは相変わらずの冬景色だ。
_既に起床し支度を整えていた数馬は、訪ねてきた孫兵を見ると昨日別れたときと同じ柔らかな笑顔で孫兵を迎えた。
「やあ孫兵、おはよう」
「おはよう、数馬」
_部屋の中は片付いていて、数馬と同室である藤内の姿もない。
「藤内は?」
「授業の予習をするからって、もう教室へ向かったよ」
「ふうん」
_入っておいで、座りなよ、という数馬の言葉に従って、孫兵は数馬の隣に腰を下ろした。
「昨日もらったあの薬、効かなかったよ」
「そう」
「でも、とても甘くて美味しかった」
「そう」
「……数馬、ありがとう」
_数馬はにっこりと笑った。「どういたしまして」

「孫兵、お茶を淹れてあげる。飲んでいきなよ」
「うん」
_数馬の淹れるお茶はきっと、涙が出るほど優しくてあたたかい。


20120517

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