(室町)


_あるとき、不意に乱太郎がこんなことを言った。
「きり丸、生まれ変わりって信じる?」
「はあ?」
_一心不乱に内職の造花作りに励んでいたきり丸もそのときばかりは手を止め、唐突な話題を振ってきた乱太郎に訝しげな視線を投げ掛けた。
_この乱世の時代だ、忍術学園の中にも救いを求めて宗教にすがる者も少なくない。乱太郎も信心を持つようになったのか、ときり丸はいつだか土井先生の授業で習ったような気もしないでもない、あやふやな記憶を掘り起こす。
「ええと、それ、何て言うんだっけ。りん、りん……臨時店長、みたいな」
「それを言うなら輪廻転生ね」
_きり丸の内職を手伝ってやりながら、乱太郎は笑う。「きり丸、手が止まっているよ」とやんわり指摘され、我に返ったきり丸は僅かな遅れをも取り返そうと大慌てで中断していた作業を再開した。
「まあ、そんな大層な話でもないんだけど。急に思い付いてさ」
_絶えず手を動かし、「ふうん?」と相槌を打ってきり丸は先を促す。
「今の自分以外の人生なんて想像もつかないけど、もし次があるなら、私は女の子に生まれたいな」
_乱太郎がそう言うと、きり丸は「ええ、何で」と眉間に皺を寄せ、不機嫌な顔をした。
「乱太郎が女だなんて俺は絶対嫌だな。女なんて五月蝿いし、気まぐれで我が儘だし、男同士の方がいいって」
_むすりとした表情のきり丸を宥めるように、「まあそう言わずにさ」と乱太郎は苦笑した。
「女の子だけの特権っていうものもあるじゃない」
「特権だあ? ……売り子のバイトに有利だとか?」
「それもあるかもしれないけど、そうじゃなくて。たとえば、好きな人の子どもを産めるし、家族になれる、とか」
_乱太郎の言葉に、きり丸はまたもやうろんな表情を浮かべ「はあん」と剣呑な相槌を打った。
「なあに、色気付いたこと言っちゃって。そういうふうに思える相手が、乱太郎にはいるわけだ」
「はあ?」と今度は乱太郎が眉をつり上げた。「何言ってんの、そんな相手、きり丸以外にいないだろ」
「へっ?」
「花街通いはするくせに、特定の相手はつくらないんだから。きり丸の側に居続けられるのなんて、私くらいでしょう」
_ひでえ言い種、と言いながらきり丸は手の中の造花を放り投げ、隣で作業をしていた乱太郎を抱き寄せた。抗うことなくその腕の中に収まり、乱太郎はいい子いい子ときり丸の頭を撫でる。
「だからね、もしも生まれ変わったら、見つけてね、きり丸。きっと私を見つけてね」
_みつけてやるよ、かならず。
乱太郎をきつく抱き締めて、きり丸は祈るように呟いた。


20120326

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