_この春学園を卒業して行った滝夜叉丸。滝夜叉丸、先輩。
_今どこにいるんですか。何していますか。立派に忍んでいますか。

_最高学年に進級したおれは、実習や忍務に追われながらも、まあ、つつがなく日々を過ごしている。
_あんたがいようがいまいが学園はいつだって賑やかで騒がしい。四年は組はいまだトラブルメーカーだし、学園長の思いつきに振り回されることも相変わらずだ。
_だけど、なあ。時々あんたに思いを馳せちまう。
_ぐだぐだ自慢を垂れ流す声が聞こえないよ、あんたが端正に磨き上げて指に沢山の傷を作ってこっそり鍛錬を繰り返してそうして誰にも負けないあんただけの武器になった戦輪も見当たらないし、そろそろあんたの小憎たらしい顔を見て口喧嘩の一つでもしないとストレスが溜まって仕様がない。
_ああそうだ、今頃気付いたよ。
_おれ、うるさいばっかりのあんたの声も、狙いを外さず飛んでくる戦輪も、むかつくけどあんたの言葉通り大層きれいだった顔も、みんなみんな好きだったよ。
_会いたいなあ、おっと、滝夜叉丸に会いたくなるだなんて、おれもついにやきがまわったか。
_でもなあ、寂しいんだ。
_あんたの顔を見て喧しい自慢と小言を聞かないと、何だか無性に寂しいんだ。

_七松先輩が卒業するときでさえ涙を堪えていたあんたが、人一倍自尊心が高くて他人に泣き顔を晒すだなんてまっぴらごめんだろうに、自分が学園を去るときばかりはおれの前で泣くだなんて。
_お前が体育委員長だなんてなあ、迷子も相変わらず治ってないし空気も読めないお前がなあ、四郎兵衛や金吾、後輩たちにあまり迷惑をかけるなよ、なんて言ったりして。
_あんたがおれに体育委員長の何たるかを教えない代わり、四郎兵衛たちに委員長を御す心得ばかり仕込んでいったお陰で、四郎兵衛も金吾もしっかり者に育って委員会はどうにかやっていけているよ。
_あのときあんたが流した涙。
_あんたも今のおれとおんなじように、どうしようもなく寂しかったんだって思っていいかな。

_あんたは優秀な忍びだけど、この戦乱の世だ、あんたはたくさんの敵を殺して、殺して、その手を血で真っ赤に染めて、そしておれの知らないどこぞでいつか野垂れ死ぬのだろう。おれはそれが堪らなく悔しい。
_あんたは人並みに結婚願望なんかもあるようだったけど、正味な話、あんた多分結婚なぞ出来ないだろうよ。
_大概の女はあんたの自慢話を聞けばついていけないと逃げ出すだろうし、それにあんたの女装は並みの女なんかよりうんときれいなんだもの。
_お嫁さんを見つけられずに一人打ちひしがれているがいいさ。
_そしたらおれが、今度こそあんたをもらいに行くよ。


20120304

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