_庄左ヱ門は最近一つ気付いたことがあった。
「庄ちゃん彦ちゃん、今日のお八つはカステラですよー」
_学園長からの頂き物だというカステラを鉢屋は後輩二人に掲げて見せた。
_その言葉に彦四郎は忍たまの友が広げられていた机の上を手早く片付け始め、尾浜は「わあい」と無邪気に喜んでカステラを切り分けるための小刀と皿を手際よく用意した。庄左ヱ門は人数分のお茶を淹れるために席を立った。
_庄左ヱ門の淹れたお茶が配られるのを待って、鉢屋は慎重にカステラを切り分け始めた。その横では尾浜がカステラの厚みについて細かな指示を出している。
_巧みに小刀を扱いカステラに刃を入れる鉢屋の手元を庄左ヱ門は注視する。
_カステラを均等に切り分け終えた鉢屋は庄左ヱ門の熱心な視線に何を勘違いをしたか、「見ろ庄ちゃん。これでもかと言うほど均等に配分したぞ。流石私」と悪戯っぽく自画自賛して見せた。
_適当に鉢屋の言葉を受け流し、庄左ヱ門は尾浜が皿に取り分けてくれたカステラを丁重に受け取った。
_上等の砂糖をふんだんに使っているのであろうそれは、品のよい甘さでとても美味しかった。

_委員会活動のないある日の放課後、庄左ヱ門は図書室で課題に関連した書物を捲っていた。
_出来以前の問題でおそらく課題の存在すら忘れているであろう級友たちと、課題を出すたび胃薬の世話になっている担任の姿を庄左ヱ門は思い浮かべる。級友たちに発破をかける前にせめて自分の分の課題は終わらせておかねばならない。
_もう少し詳しい解説はないものか、と庄左ヱ門は手にしていた書物を棚に戻し、受付に向かった。この日の当番は五年の不破で、庄左ヱ門がこれこれこういう課題で、と説明するとすぐに幾つかの参考書を庄左ヱ門に示してくれた。
「ありがとうございます」と頭を下げ庄左ヱ門が貸出の旨を告げると、不破はにっこり笑って頷いた。
「庄左ヱ門は熱心で偉いねえ」
「級友たちが不真面目な分、僕くらいちゃんと課題に取り組まないと土井先生に申し訳ないんですよ」
_庄左ヱ門がそう言うと、不破は苦笑した。図書委員会に所属する一年は組のきり丸も、課題などどこ吹く風で今日も今日とてアルバイトに精を出しているに違いない。
_慣れた手付きで貸出の手続きをする不破の手を、庄左ヱ門は注意深く眺めた。
_手続きを終えた不破が庄左ヱ門の視線に気付き「どうかした?」と顔を上げると、庄左ヱ門は自分の無作法を詫びたあと、「何でもありません」と笑みを浮かべた。

_日を空けて再び学級委員長委員会の活動日。この日のお八つは団子で、実習があって外出していた鉢屋と尾浜の土産だった。
_日頃から学園長御用達の茶菓子のご相伴に預かっている二人が選んできたものだけあって、団子はこれまた美味であった。
_自分の分を早々に食べ終え、庄左ヱ門は鉢屋を、というより団子を口元に運ぶ鉢屋の手付きをよくよく観察していた。
_庄左ヱ門の視線に気付いた鉢屋が笑って「一口いるか?」と尋ねると、庄左ヱ門は素直に頷いた。彦四郎が呆れたような視線を送ってくる。
「最近の庄左ヱ門は何だか食いしん坊だなあ」
_一口と言わず食べかけていた一差しをまるまる庄左ヱ門に与え、鉢屋は楽しそうに言った。団子を食べながら「このお団子、美味しいです」と庄左ヱ門が言えば、鉢屋は一層嬉しそうに庄左ヱ門の頭を撫で回した。

_庄左ヱ門は、言わない。
_鉢屋の手は指が細く、長く、手のひらが大きい。対して、不破の手は鉢屋よりも肉付きがよくしなやかで、どちらかと言えば女性的だった。
_頭巾の上から感じる意外に暖かい鉢屋の手が、庄左ヱ門は好きだった。
_最近になってようやく発見した二人の先輩の差異を、わざわざ教えてやるものかと庄左ヱ門は決意を固く、団子を頬張った。


20120301

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