_生きるためには、人の中で生活するためには、何事にも対価がいるときり丸は考えていた。
_食べるための野菜を買うには銭がいるし、己で農耕するにしたって土地代がかかる上に相応の労働が必要だ。きり丸が世話になっている土井宅は借家だから毎月家賃を支払う。アルバイトをすれば仕事内容に応じて銭が手に入る。
_そしてそれは人と人との関係にもまた、同様に対価がいるものだときり丸は思っていた。
_きり丸にとって乱太郎は特別な存在で、だからこそ日頃散々世話になっている乱太郎には相応の対価を支払わねば、という気になった。
_どケチのきり丸が、である。雨の心配をするべきかもしれない。降ってくるが槍だという可能性も大いにあり得る。
_しかしきり丸は珍しく大真面目だ。きり丸が真面目になるのは銭と乱太郎のことだけなのだから。
_乱太郎から与えられる優しさや温かさは無償のもので、等価交換の習慣が身に染み付いてしまっているきり丸にはどうも腹の据わりが悪いように感じてしまう、ということもある。
「俺はお前に何を返せばいい? お前に報いるためには、幾ら払えばいい?」
_だからきり丸にとってこの言葉は当然だった。疑問に感じることすらなかった。
_これまでにアルバイトでこつこつ貯めてきた銭の額を思い浮かべ、次に学費や生活費を差し引いた額を計算し乱太郎に支払うことの出来る大体の額を弾き出して準備万端、きり丸は問う。
_乱太郎はにこりと微笑んで、しかしその表情のままきり丸を容赦なくぶん殴った。
_突然のことに思考が追いつかず、頬の痛みに目を白黒させるきり丸に向かって、乱太郎は笑顔で吐き捨てた。
「一生かけて考えな」

――乱太郎は、怒ると怖かった。


20120226

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -