_乱太郎の死因は土砂崩れによる窒息死である。

_忍術学園を卒業して数年。幾つもの城が関わる大戦の最中のこと、半忍半農であった乱太郎も城に召されていた。
_同盟を組む城にはきり丸も仕えている。乱太郎と違ってエリート忍者として名も売れているきり丸は前線で縦横無尽に暗躍していた。
_乱太郎は仲間から託された巻物を懐に忍ばせ、山中を密かに、かつ素早く駆け抜けていた。それは敵対する城から仲間が盗んできた密書で、これをきり丸へ届けるのが差し当たっての乱太郎の忍務である。
_乱太郎は走りながらここまでに追っ手を二人切り捨ててきていた。
_人を殺したのはこれが初めてではないが、何度経験しようとその感触には慣れない。
_きり丸はおそらく乱太郎とは比べものにならないほど多く殺生を行っているはずだ。自分自身を守るため、仲間や乱太郎を守るため。
_きり丸のことを考えながら走っていると、乱太郎には急に戦が馬鹿らしく思えてきた。戦の馬鹿馬鹿しさ。その度に、民は苦しむだけだと言うのに。
_やはり自分には気楽な半忍半農くらいがちょうどいい、早くこの戦が終わればいいなあと乱太郎が思った、そのときである。
_地を揺らす轟音が鳴り響く。
_そして次の瞬間には、乱太郎は襲い来る土砂に飲まれていた。
_迫る土砂を目にした瞬間、ああもしかして、否もしかしなくとも、私は死ぬのだなあと、思いのほか乱太郎は冷静だった。
_その瞬間乱太郎の脳裏に浮かんだのは、今この瞬間も戦線で戦っていて、乱太郎の運ぶ巻物を待っているはずの友人の顔だった。
_乱太郎がこの巻物を無事届けねば戦況はまた変化するだろう。しかし乱太郎にとって戦況など最早どうでもいい。
_彼は泣くだろうか、自分は彼を置いて逝かなければならないのか。
_どうせならばいつかの約束の通り彼の手にかかって死にたかったと、それだけが乱太郎には悔やまれた。
_そして苦しむ間もなく、意識が途絶える。
_暗転、

_死した乱太郎は中陰の世界を進む。
_辿り着いたそこには閻魔大王が御座した。乱太郎が立つそこは、死後閻魔大王によるお裁きを受ける間であった。
_閻魔帳を捲ると、閻魔大王は乱太郎を見据えて地響きを連想させるような深く轟く声で仰った。
「猪名寺乱太郎。お前は生前正しく生きて不運に死んだ。お前は沢山の殺生を行ったが、それはすべて同胞や民のために行われ、またそれ以上に多くの命を救ってもきた。本来お前は地獄へ行くべきだが、私が特別にお前を許し、極楽へ入れてやろう」
_閻魔によって乱太郎に示されたのは極楽へ続く道である。
_しかし乱太郎は即座に「ありがとうございます。でも、私は結構です」と答えた。
「恩情を与えて下さると仰るのならば私の代わりに摂津のきり丸を、幼くして家族を失い大切なものを守るために修羅の道を歩むしかなかった彼を、死んだ暁にはどうぞ極楽へ入れてやってください」
_乱太郎はそう言うと、ぺこりと一礼し、獄卒の制止も聞かずさっさと裁きの間をあとにした。


20120223

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