_足元に寄ってきた野良犬の目が、彼に似ていると思った。
_伏木蔵はハッと野良犬を注視し、思わず手を伸ばした。野良犬は案外人懐こいようで、伸ばした指先が噛まれるようなことはなかった。指先で、そっとその身体を撫でる。
_藪の中でも抜けてきたのか、野良犬は傷だらけで身体のあちこちに葉っぱを付けている。その一枚一枚を丁寧に取り除いてやる伏木蔵を移す瞳は、しっかりとその姿を結んでいるはずなのに、奥に底知れない闇を抱えているように深かった。
_やはりあの人に似ているなあと伏木蔵は野良犬をまじまじと観察する。
_自分がこうして数百年前の記憶を持ったまま再びこの世に生を受けたのだ、彼だって伏木蔵と同じくこの時代に生まれ変わっていたって不思議ではない。
――それが人間であるとも、限らないし。
「ふふ」
_伏木蔵はかつてと同じようにおどろおどろしく微笑むと、しゃがみ込んで野良犬を抱き上げた。
_抵抗もせずに大人しく伏木蔵の腕の中に収まった野良犬の目を覗き込み、伏木蔵はうっとりと囁いた。
_ねえ、犬畜生に生まれ変わるだなんて。
「かつてあなたは、それに相応しいだけのことをしてきましたものねえ、粉もんさん?」
_そう言って、愛おしげに野良犬を抱きしめる。

_それを終始傍らで眺めていた大人が、ぽつり。
「……いや、確かにそうだけど、そうじゃなくて、勿論それ私じゃないからね伏木蔵?」
_わかってますようと子供は無邪気に笑い、相変わらず君は残酷な子だねと溜め息を吐いて雑渡はその小さな頭を優しく撫でた。


20120214

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