_午前中に一日の授業を終え、委員会もないゆるやかな午後。
_自室で庄左ヱ門は予習を行い、伊助は図書室から借りてきた書物を捲っている。会話らしい会話はないが、とぷとぷと満ち足りた空気が部屋に漂っていた。
_そこへ、騒がしい足音が二つ駆けてきて、庄左ヱ門と伊助の部屋の前でピタリと止まった。何だか殊勝な声で来訪を告げたのは級友の団蔵と虎若だった。
_団蔵と虎若は下手くそなご機嫌取りの笑みを浮かべると、二人揃って伊助に頭を下げた。
_曰わく、鍛錬(と称したチャンバラ)をしていたら制服が破れてしまったので、手先の器用な伊助に是非とも修繕をお願いしたい、とのこと。
_伊助はまず鍛錬で制服を破くという不注意を叱り、それから「仕方ないなあ」と言って裁縫道具を取り出した。
_わあいと無邪気に喜んだ虎若は、何だかんだと文句を言いながらも鮮やかな手際で制服を直し始めた伊助に抱きついた。伊助は慣れたもので「まったく、今度からは自分の制服ぐらい自分で直せよ」と動じない。虎若はそれには答えず、代わりに「ありがとう母ちゃん! 愛してる!」と誤魔化すように叫んだ。
_その隣では団蔵が申し訳なさそうに笑いながら「母ちゃん俺のも!」と制服を差し出して、「お前もか! 誰が母ちゃんだ!」と伊助に怒られていた。
_しかしそう言いながらも、虎若の制服を繕い終えた伊助は続いて団蔵の制服を受け取り団蔵の分に取りかかった。
_甘えん坊どもだなあと庄左ヱ門は呆れる。伊助が甘やかすからつけあがるのだ。
_掃除に洗濯に縫い物まで。これではまさに虎若と団蔵の母親である。
_母ちゃんだのおかんだのと級友たちから呼ばれる度伊助は反論するけれど、やはり頼られること自体は満更でもないらしい。
_三人の様子を眺める庄左ヱ門は、まあ、苛々しないでもない。
_二人でゆるりと過ごしていた時間を奪われたことも、団蔵と虎若の二人がやたらベタベタと伊助にくっついていることも。
_そんな庄左ヱ門の顔色を読んで、団蔵が苦笑した。
「そんな怖い顔すんなよ、庄左ヱ門。いいだろ、二人きりのとき伊助はお前だけのものなんだから」
_団蔵が言うと、「そうだそうだ」と今や寝転がり伊助の腰に抱き付いていた虎若が団蔵の言葉に同意する。一方で、縫い物の手を止めないまま顔を上げて「はあ? 何言ってんの」と伊助は怪訝な表情を浮かべた。
「とりあえず虎若、その腕を外せ。今すぐ」
_庄左ヱ門が凄みを効かせて笑むと、父ちゃん心が狭い! と子供らは笑った。


20120212

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