(きり丸と庄左ヱ門)


_乱太郎から妊娠を告げられ、きり丸は途方に暮れて頭を抱えていた。
_その向かいに座り、当然のことながらきり丸の気など知らず暢気に茶を啜っているのは我らが学級委員長、黒木庄左ヱ門である。
「ああどうしよう、庄左ヱ門。俺どうすればいい?」
_救いを求めるように縋ってきたきり丸に、しかし庄左ヱ門は素気なく答える。
「どうするも何も、責任を取るしかないだろう」
「庄ちゃんったら冷静ね!」
_きっぱりと言い切られ、きり丸は「やっぱりそうだよなあ乱太郎の父ちゃんに殺されるぅぅ、土井先生にも殺されるぅぅ」と一層頭を垂れた。
_普段銭が絡まない限り冷静沈着でドライなきり丸の珍しく取り乱した様を生温かい目で眺め、庄左ヱ門は穏やかに微笑んだ。
「多分乱太郎はね、きり丸の先の発言に排他性を感じ取ったんだと思うよ」
「……排他性?」
_その言葉に、うなだれていたきり丸は顔を上げた。そう、と庄左ヱ門は頷いた。
「何と言えばいいかな。血の繋がった子供を愛せる自信がないから要らないっていうのは、自分から家庭のある温かな未来を捨てて独りきりのままでいようとしている、というか」
_きり丸が顔を歪ませた。庄左ヱ門の言葉に傷付いたような、思ってもいないことだというような、図星を突かれたような、そんな複雑な表情をしていた。
「……別に、俺はそんなつもりじゃあ」
_口の中で何やら言い訳らしきものを呟いているきり丸に、庄左ヱ門はもう一度「うん」と頷いてやった。
「これは僕の感想。乱太郎がどう感じたのか、正確なところは僕にもわからないよ。ただ、これだけは知っておくんだね。あのとき乱太郎は自分が蔑ろにされたと思って怒ったんじゃなくて、そんなきり丸の境遇を思って泣いたんだよ」
_幼子に言い聞かせるような、柔らかく力強い語調だった。
_黙りこくってしまったきり丸の頭を撫で、庄左ヱ門は笑った。
「そこで実力行使に出ちゃうのが乱太郎の怖いところだけど。……女性はしたたかで、ともすれば男の僕らにとっては脅威であるね」
_今回の乱太郎の度胸と行動力には流石の僕も吃驚したよ、と庄左ヱ門は茶を啜った。
_庄左ヱ門にとってきり丸と乱太郎は二人とも大切な友人である。大切な友人ではあるがしかし、所詮は他人事である。
_庄左ヱ門はごく簡単に、結論を下した。
「腹をくくって、幸せになることだね」
_きり丸の幸せを願っているのは、みんな一緒なのだ。


20120212

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