_部屋の片隅できり丸は頭の先まですっぽり布団を被り、乱太郎に背を向けていた。
_近寄るなとその背が頑なに語っている。しかし同時に、どこへも行かないで、と声なき声が叫んでいた。
_乱太郎は一定の距離を保ちつつ、きり丸を見守っている。
_手を伸ばせば簡単に届く距離。しかし乱太郎は手を差し延べない。きり丸が布団から這い出て自ら手を伸ばしてくるのを、辛抱強く待っている。

「――大事なものなんてもう生涯つくるものかと、確かに決めたのによう」

_不意に、涙が滲む声できり丸が語り出した。
「皆を、お前を、失うのが怖い。家族を友達を亡くしたあのときの喪失感を俺ァもう味わいたくないんだ。守るものがあれば強くなるなんて嘘だよ。こんなにも恐怖で雁字搦めになって、身動きさえとれやしない」
_臆病者は自己防衛のため必死に周りと距離をとろうとして、そのくせ一人にしないでと全身で叫ぶ。
_馬鹿な子だなあと乱太郎は思う。愚かで、可哀想な子。一体何を恐れることがあるというのだろう。
「きりちゃん、出ておいでよ。大丈夫、この学園にはそう簡単にいなくなるような柔な奴なんていやしないよ」
_布団から出ればいい。手を伸ばせばいい。触れてみれば温かいのだ。
_きっとあっけないほどに。
_ねえ、だから。
「そんなとこで一人で泣くの、およしよ」


20120211

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