:: PICTURE TEXT


 

詰めが甘かった。
いわゆる体が覚えてるってやつは記憶として扱われないんだろう。匂いからここまで真実に迫ってくるなんて。
ぼくは俯いたまま、打開策を考えていた。きっとこの人は騙せない。ぼくの仕業だって事を否定して嘘を塗り重ねても、きっとどこかからまた真実に辿り着いてくる。
でもぼくは、この人をぼくから解放する覚悟を決めたんだ。そのために人として最悪な事をしたって構わない。
立ち上がって、少し距離を取る。スタープラチナの射程外、ヘブンズドアーの射程内。ほんの少しの差を利用した距離感で、右手を動かした。

「ヘブンズ・ドアー」
書き込む内容は決めた。『岸辺露伴を疑えない』、これでいい。違和感があってもぼくを疑わなければ真実に辿り着く事も思い出す事もない。
驚いた表情のまま、承太郎さんの顔が捲れていく。白紙、ぼくを疑って日本に来た記憶、アメリカに戻ってからの娘さんの記憶。ぼくを疑ったって事も一応消しておこう。読みやすいように近付いてページに手をかけ、ぼくが弄くった最後のページを開いた。

「露伴」
文字に囲まれた目がぼくの方を向いて、文字に囲まれた口がぼくの名前を呼んだ。
ぼくの名前は呪いを解く呪文だったんだろうか?途端に捲れたページの隙間から、黒い煙が立ち上った。こんな事は初めてだ、何が起きてるんだ?ページを摘んでいた手でその煙を掴んでみる。恐る恐る開いた手のひらは、よく知っている状態になっていた。インクまみれだ。

「ヘブンズ・ドアー!」
宙に浮いたぼくのスタンドを振り返る。何故だ、何故こんな事になる?塗り潰した筈の感情が、記憶が、次々甦っている。まるで塗り潰されていた文字が発熱しているみたいに、文字の上から重ねた黒ベタがどんどん蒸発して霧になって、空中に逃げていく。
嘘だ、エラーだ。今までこんな事は一度だってなかった。確かに承太郎さん以外には感情を操作したことは無かったけど、本にした時記載されているものはぼくの好きに出来るはずなんだ。現に今日まで上手くいっていたじゃないか。
また消せばいい、消せる筈だ。剥がれていく黒ベタを元に戻そうとインクにまみれた右手を翳すと、塗り潰すより先に手首を掴まれた。本にされているとは思えない強い力でぼくの手を掴む承太郎さんが、本にされているとは思えない強い目力でぼくを見据える。

「…離してくれ、頼む。あんたとあんたの家族のためなんだ、」
我ながら情けない声での懇願は無視されて、強く引き寄せられた。あんた今、本なんだぜ。なんだよその精神力。

「…あんただけが自己完結して犠牲になって、自己満足を押し付けて。狡いとは思わないのか。俺の中じゃまだ完結はしてねぇ。」
思うさ。でも押し付けだって気付かれなきゃいいじゃないか。今気付かれちまったけど。

「…ヘブンズ・ドアーの限界をちゃんと把握してなかったのが敗因だ。」
感情はコントロール出来なかったんだろう。だからエラーが起こったんだ、きっと。承太郎さんの背後の空気が歪んで、発動させたままでいたヘブンズドアーが現れる。いつも無表情なその幼い顔が、少し困ったみたいに歪んだ。

「スタンドは本体の無意識だろう」
それ以上は言うなよ。能力の限界か、せめて承太郎さんの精神力がちょっと異常でヘブンズドアーがそれに負けてしまったって事にしておきたいんだ。じゃないと覚悟とか責任とか言ってたぼくがダサいじゃないか。

承太郎さんは相変わらずのマリンノート。もしもぼくが明日承太郎さんの記憶を失っても、この匂いから真実に辿り着くのかもしれない。

閉じた扉はまた開かれてしまった。罪と海の匂いが立ち込めるその向こうに、何が待つのかは分からない。
最強だけど最低な男と天才だけど不完全なぼくで、どこまで行けるんだろう。どこに行くんだろう。
そろそろ覚悟を決めなきゃいけないのかもしれない。彼を背負うだけじゃなく、彼に背負われる覚悟ってやつを。






―――――――――

mr.nonameの消去さまが、当サイトのイラストを元に小説を書いてくださったと言うことで、許可を得て載せさせていただきました!
消去様、どうもありがとうございました!ややぁ、ここまで書いていただければ私にはなにも言うことはないですね。とても楽しませていただきました。


私自身このイラストにはとても思い入れがあります。というか、私が承露にはまったきっかけのお話を読んで、その時に感じたものを込めてあります。私は言葉にはせず絵にしたわけですが、それをまた文章に…
間に挟まれた私はなんて幸せなんでしょう!三つ並べることで和音のようなハーモニーを感じてます(?)

まぁ、それはいいとして、承露ループ素晴らしいなぁと思いましたね。ジワジワと承露の輪が広がる感じがします!

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -