「……納得がいかない」

理事長室はいつも淹れたてのコーヒーのにおいか、お茶のにおいがする。それに対して落ち着きを感じるかは人それぞれではあるけれど、私はどちらかというとお茶の香りがしているときは慣れ親しんでいる分落ち着く。

バーン!!

常に何かしら苛立っている彼が隣にいなければ、の話なのだけれど。現実逃避しかけた思考はものの見事に机を力任せに叩いた音で呆気なくも現実に引き戻された。

「俺達の役割って、芸能人の出待ちの警備でしたっけ?理事長!」
「いやー、大変だよね毎夕毎夕」

大抵の人間なら怯むだろう零のこの剣幕をものともしない辺り、この人はやはり大物なのか。はたまた、バカなのか。どちらの可能性も等しく持ち合わせているから厄介なのだ、この人は。

「大変だって分かってんなら風紀委員の頭数揃えてくれ、アイツらちっとも役に立たねーし!」
「いつも出待ちに遅刻したりサボったりするやつに言われたくなーい!」
「そうよねーか弱い女子にあれを抑えろなんて無理な話よねー男子欲しいわ、男子。ちゃんと仕事する」

最後の方に含みを持たせて言ったものの、果たして聞こえているのかどうか。実際、ああいった時の女の力たるや、同じ生物とは思えないものがあるのだから仕方がない。

「……無理だね。普通科と夜間部を共存させるために『守護係』はとても重要なんだ。君たち三人にしか任せられない。……まぁ、雑用ばっかだし徹夜だし憎まれるし報われないしでイヤな役目なんだけどね…」

本当に、どうしてこんな役回りをする羽目になったのだろう。私はこの学園に入った初日にこの学園の秘密、そして守護係の役目を申し付けられた。最初は半信半疑だったものの、今ではもう悲しきかな。非現実的な日常と化してしまっているのが現状なのだ。

「でも、可愛い義息子と愛する義娘達にやらせれば、僕も心が痛まないし?」
「確かにあんたには世話になったとも!!だが俺はあんたの義息子になった覚えはない!」
「……私もないんですけど、」

それどころか、世話になった覚えもないのだが。バキリと嫌な音を立てた机と己の理想を劇がかって語る理事長は見ないことにして、逡巡する。
ずっと引っかかっているのだ。理事長の義娘である優姫と彼が後見人(のような位置だと私は勝手に思っている)である零はいいとして、何故私が。


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