ふと時計を見ると、すでに時刻は宵の刻を示していた。これから待ち構えているだろう、回避不能な厄介事を思い出して溜息を飲み込んだ。ほぼ毎日行われる恒例行事とはいえど、むしろよく飽きないものだと逆に感動さえ覚えるものだが。

「はいはい、下がって下がって!デイ・クラスの皆さんは門限ですから自分の寮に帰って!」

風に乗って聞こえてくる甲高い声に目を細める。平たく言えば、風紀委員の名において門限までに生徒たちを?に戻す、なのだけれど。一筋縄ではいかない理由がこの学園にはある。普通科と対をなす存在ともいえる夜間部と名された学科が存在するのだ。夕刻から夜間にかけて授業を行う、それ自体は珍しいものではない。しかし、そこに在籍する連中がそろいもそろって眉目秀麗、成績優秀でこの校舎内の生徒の入れ替え時間しか接触できない。ときたらどうなるだろうか。

要は、アイドルの出待ち、もしくはハリウッドスターの来日よろしく状態である。

すでに?の門は開かれてしまったらしい。目的地に近づくにつれ重くなっていく足取りをどうにかこうにか宥めすかしながら歩いていると嫌でも聞こえてくる嬌声、奇声の類に胃の中にどっと鉛のようなものが落ちる気がする。

「……優姫、無事?」

申し訳程度に声をかけると地べたに這いつくばった優姫からの恨みがましい視線が突き刺さる。遅れたという事実は覆せないので恨み言はしっかり聞いてやらねばならないだろう、この事態が収拾した後に。せめて手を貸してやろうとしたが、視界の端から静止をかけられて黙るしかなかった。

「大丈夫かい優姫、いつもご苦労様」

玖蘭枢、この豪華絢爛集団の親玉だと私は思っているし、実際そうなので問題はないだろう。その人が跪いて手を差し出すのはきっと彼女だけなのだろう。二人が話しているのを遠目に見ていると突如後頭部に衝撃が走る。

「お前は何サボってんだ、宵月」
「貴方に言われたくないわよ、零」

大幅に遅刻しておいて私の言葉を意に介した様子もなく、ずかずかと二人に近づいていく。

「授業が始まりますよ、玖蘭先輩」

優姫から彼を引っぺがして睨みつけるのもまた、よくも毎度やるものだと思う。彼は、夜間部を毛嫌いしている。人間、自分よりも優れた者に対しては卑屈になりがちだが、彼らはそもそも人とは違う。

夜間部は、全員吸血鬼だ。

一般生徒に対しては機密事項であるこれらを守るのが表向きは風紀委員として置かれた真の名は守護係、(とは言っても私と優姫そして零の三人なのだが)に課せられた仕事である。




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