あの人と、そしてあの人と私。もうはるかに遠いことのように思える記憶。二度と還ることのできない、過去。
夢というものはとても残酷なものだと思う。
「どうしたの、なまえ」
「……あんまり楽しくない夢を見ただけ」
「こわい夢?」
「ううん、違うの」
私の頭を撫でる彼の手つきはひどく優しくて、あの居心地のいい先程の夢の中に近い。悪夢に魘されたわけじゃない。けど、もっと残酷な幸せな夢。
目覚めた時にまざまざと現実を突きつけられて、優しい世界からそれが私にとって嘘にまみれた都合のいいものでしかないと突き放されるその瞬間に、言い様のない虚しさを感じるから、出来るなら深く眠りたい。
「……昔のこと、見ただけ」
「そっか」
ヴァリアーに入る前の私、本当は私は何も要らなかったのに。きっとあの頃が私が一番望んでいた世界だったのだから。
でも、どうせそこから前にも後ろにも進まないことは不可能だったから今の私に後悔はない。
だから、今更なんの意味もないのに私はどうしてこんなに感傷的になっているのだろうか。
嫌悪感に吐きそうになる。
「……俺も、よく昔のことを夢にみることがあるよ」
「そう」「懐かしいなぁ、とは思うけどね。でも戻りたいとは思わないんだ。不思議と……まぁ、そうじゃなかったらなまえと出会ってなかったわけだし?」
「……十年前の綱吉なら絶対にこんなこと言えないわね」
クスクスと私が笑うと、綱吉も穏やかな笑みを浮かべる。これだけは、昔から変わらない。
ねぇ、どうやったら優しいままそんなに強くなれるの。と尋ねてみても、綱吉はきっとうまくはぐらかしてしまうだろう。
「昔のことだろ?成長したと思ってるよ、多少は」
「そうね、あの頃はあたしのことも怖がってたじゃない」
「そりゃあ、あんなぶっ飛んだ連中だし。でも普段のなまえはただの世間知らずな女の子だって分かったらそうでもなくなったよ」
「なにそれ、失礼ね」
機嫌を取るように撫でてくる手は嫌いじゃない。再び訪れた睡魔にうつらうつらしていると、綱吉が私の耳元で囁く。
「……おやすみ、今度は良い夢が見れるといいね」
そうね、だったら貴方が出てきてくれれば良いのよ。
あとがき
未送信を発掘して書き上げようキャンペーン。綱吉さん(24)と姫(25)編。
幸せだった頃の夢なんて見ても虚しいだけよね、っていう。まぁ私夢見ないんですけど。熟睡してるのかはたまたヤバイ夢だから消去されてるのか。
綱吉さんは包容力に溢れている。といいな!
title She saw a foolish dream. (彼女は愚かな夢を見た。)