「つくづく思うけど、アンタって大分自由だよね」

夏物のワンピースの裾が翻る。
随分と前から私服に機能性を求めなくなってしまったものだ。帰省ラッシュやらUターンラッシュを外した空港はいくらかは賑やかさを欠いていて、見栄を張って高めのものを選んでしまったサンダルのヒールが床を鳴らす音がやけに響くのが自分でも気に入らなかった。

「俺、お前も高校こっちだと思ってたんだけど」
「何を根拠にそう思ってたのよ」

目線が合わないのは、コイツがバカみたいに背が高くなって、あたしの背があまり伸びなかったからじゃない。いつからか、あたしが合わせることを止めただけだったことに最近やっと気づいた。

「じゃあ大学は」
「それならそっち行ってもいいかも……ってアンタは全く……」
「何だよ」

(―だって、見上げなきゃいけないなんて癪だ)

「あたしがいつまでもアンタと一緒に行くとでも思ってんの」
「別に思ってないけど」

二年前までのあたしなら、そうしていたかもしれない。でも、そうする理由も力もあたしにはもう無かったから。なくしてしまったから。
諦めるようにならざるを得なかったのも確かだけれど。

「……ねぇ、リョーマ」
「何」
「なんであたしにだけ、教えるの」
「……お前に隠しても意味ないじゃん。すぐに分かるだろ」

そうして、あたしに全部面倒ごとを押しつけるつもりなんだ。早くて明日、一番遅くても夏休みが明けたらコイツのいない中学校生活の残り半年が始まる。あいつらに質問攻めにされて、朋香に喚かれて……桜乃はどうするのだろうか。
あぁ、竜崎先生は全部知っているんだっけ。でもコイツが口止めしてたら意味がないわけで。

「なまえ、」

そうぐるぐると考えていたあたしの腕をコイツは勢い良く引っ張る、そこでハイヒールのあたしがよろけるのは至極当然のことなのだけれど。

「……!」

右腕だけで簡単に受け止められて(まぁ、コイツのせいなのだからこのくらいして貰わなければとは思うけど)、キスされる。
それがまだ子供染みたものならまだマシだっただろう、ということは実際そうではなかったというのは明白だ。
油断していた、というより元からこうなることなど予想外だったのだ。

「……じゃ、先行ってるから」

そうして、ヒラヒラと手を振って搭乗ゲートを潜るアイツの背中を呆然と見送ってから正気になったときにはもう、

「……っ、あのバカ……!」

あんなことを言っておきながら、本当は思ってるんじゃあないか。あたしが、アンタについていくのが当たり前なんだって。







あとがき
私は中1越前が書けないらしい。ぎゅっサバでナチュラルにあんなことしてくれた越前さんは中3ならこのぐらいやるんじゃないのって思った。ちなみに夢主152越前175くらいのつもりです。
うわぁ初めてテニミュ見に行った日だ今日。とかセンチメンタルになってたら越前書いてた。


title 心臓が止まりそうです

120209
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