蝉が騒がしく命を懸けて鳴いて、ただ暑いばかりの夏がもうすぐ終る。自分自身の中の夏というものも当に終わっていたのだけれど。
「……何しに来たんスかなまえ先輩」
「うん?がんばってるかなぁって」
全国大会が終わって少ししか経ってないというのに部室に顔を出したら、既に今日のメニューは終わってしまっていたらしく、新部長がぽつりと一人で部誌の記入中だった。
「まぁまぁっスわ」
「そっかそっか」
手近なパイプ椅子に腰かけて、その様子を見ていると、見すぎっスと怒られてしまった。
「ねぇ、光くん」
「なんスか」
「私はテニス部のマネージャーで良かったと思ってるし、後悔はしてないけどさ。……光くんは、どうだったの」
頬杖をついて、窓の外を見ている私と部誌を書き続ける彼の視線はぶつかることはなく、ただ彼がシャーペンを紙の上に走らせる音と、申しわけ程度に壁を飾る時計が秒針を刻む音しかこの部屋にはない。
外のうるさいくらいに鳴き続ける蝉の声すら遠くて、切り離された空間にいるかのような気分。
はっきり言って、この問を彼にぶつけることを心の隅で私は恐れていた。
「最後の試合のことやったら、気にしてませんわ。……そう言って欲しいんやろ」
「……ってことは、違うの……かな」
「どうなんやろ、俺もよく分かってへんみたいなんスわ」
姿勢を微妙に変える度に安っぽいパイプ椅子はギシギシとなって、耳障りだ。
「私はね、なにもしないで勝つ虚無感もなにもしないで負ける後悔も好きじゃないな」
「そういえば先輩、あんま勝ち負けに執着とかあらへん人やん。」
「まあね……かといって、結果論じゃなくて過程重視ってわけでもないんだけど。不完全燃焼って気持悪くない?」
「そりゃまぁ。ちゅーか、俺らなんの話しとんのやろ」
多分、私はかなり面倒な頭の作りしてるだけなのだろう。彼はなんだかんだ私の話を聞いてくれてるだけすごく優しいと思う。
「私は別に光くんが後悔してなかったらそれでいいや」
「気にしてない言うたら嘘になるけど、後悔はしてへんから大丈夫っスわ。勝てるオーダーっ負けたんはムカつくけど」
「そう聞けて良かった。じゃあ私帰るね」
ギシリ、という音を立てて立ち上がると彼の手が私の腕を掴む。
「……あとちょっとで書き終るんで……もうちょい、いたらええやないですか」
「え……一緒に帰っていいの?」
「先輩がなんも予定ないんなら」
じゃあ、そうしようかな。と思って再び座ると、彼が何事か呟いた。聞こえてないつもりだろうけど、残念ながら私は聴力は無駄によろしいのだった。
「……嬉しいこと言ってくれるね」
「なんのことっスか」
最後の試合で何も出来へんかったけど、アンタが俺の実力分かっててくれんのなら後悔はない。ねぇ……
あとがき
収集つかなかった……なにもしないで勝つ虚無感の話がしたかっただけ。
実際のところ彼があの試合をどう思ってたのか気になる。
110626