久しぶりに日本に戻ってきた。戻ってきたとは言っても、母さんが顔を見せろとうるさいから(俺にしては珍しく定期的に電話だってしてる)本当に一時の帰国だ。
そして、向かい側の部屋の住人はまだ帰ってきていないらしく、アイツの家の猫だけが普段と変わらずに家に上がり込んでいる。

なんとなく、物足りない。

そう思っていると、向かいの部屋の灯りが点いて、次いでラケバがドサッなんて音を立てて床に置かれたらしいのが俺の耳にまで届いた。

「……帰ってきてたん、だ……」

ベランダのガラス戸を開けて、こちらに顔を覗かせたアイツは別段興味もないような目で俺を見ている。

「今日、学校行ったじゃん」
「……知ってる。あたしが打ってるとこ、見てたでしょ」
「何だよ、気づいてたんじゃん」

俺の言葉を聞き流しながら、アイツはいつもの通りにベランダを乗り越えて俺の部屋に侵入してきた。

「いつ、帰ってきてたの」
「昨夜。でも今夜には戻る。顔見せに来ただけだし」

今夜、なんてあと数時間足らずでやって来る上に俺はすでに出て行くところなのだ。どうせなら、コイツが帰ってくる前に行ってしまうべきだったのだ、俺は。

でも、もう遅い。

「……何」
「ねぇ……まだ、いたらいい、じゃん……」
どうしたことかアイツは後ろから抱きついてきている。俺の腹の辺りで交差している腕の力は、多分コイツの全力であるだろうが俺には簡単に振りほどける程度だ。

あぁ、コイツは俺よりも弱い生き物だったんだ、なんて今更だけどリアルに感じた。

「……なまえ」
「何」
「何で髪切ったの」
「気分よ、気分。それがどうしたの」
「……良いんじゃない、似合ってる」

二匹の猫が俺たちの足元でじゃれ合って騒いでる。お前らは素直でいいよな。
本当に言おうとしてた言葉は喉の奥で行き場を無くして、中途半端にぶら下がっている。

「アンタさぁ、どこまで行くつもりなの」
「さぁね、俺は行けるとこまで行くつもりだけど?」
「……あたしを置いて?」

コイツがそう思ってたなんて、思いもよらなかった。ヤケに今日はコイツが素直で、やっぱり今日戻るのは止めようか、なんて思いそうになる。

開いた身長差も、互角に打ち合えなくなった辺りから感じていた力の差も、どうでも良くなる程今日のコイツは俺の調子を狂わせる。

今、コイツの手に触れたら、何か変わるだろうか





あとがき
リョーマの幼なじみな彼女は初めて作った娘なのでとても思い入れがあるんです。
2年になって数日、ってところ


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