「クフフ、お久しぶりですね……ヴァリアーのお嬢さん」
「……そうね……六道骸。生きてる間に出てくるなんて、思ってもなかったわ」

目の前の男の髪のふさふさした部分を引っ張ってやろうか、なんてまだ5年ぐらい前の自分だったら多少は思っただろうけど生憎ともうそんなことを思うほど、自分は子供ではなくなってしまったのだ。

差し出された手を取るでもなく、立ち上がった彼女に骸も機嫌を損ねることなく大人しくその手を引っ込めた。

「出来の悪い僕の弟子が、粗相をして貴女に迷惑をかけていないと嬉しいのですが」
「……別に、あの子は口は多少悪いけどあたしにはそんなこともないし」
「……おや、あのおチビさんがねぇ」

その刹那、骸のオッドアイが剣呑に煌めいたのが見えたがなまえにはその理由はよく分からなかった。
自分のものが懐柔されたのかと、気にしたのかもしれない。骸にとって、ヴァリアー含めマフィアは忌むべき存在なのだから。

「ねぇ、それであたしに何の用なの」
「おや……貴女にしては、珍しく人を邪険に扱うのですね。気に入りませんか?僕のことが」
「……さぁね」

前髪の奥に隠されたなまえの瞳がどの様な表情を映しているのか、骸に推し測ることは困難だが彼女に嫌われる要素なら1つだけ思い当たる節がある。

「……まだ根に持っているのですか?10年前の戦いのことを」
「別に、忘れたわよ。あんな昔のこと……」
「そうですか?貴女はあのアルコバレーノを随分と構っていましたから」

なまえがふい、と顔を背けたのに骸がいつもの笑い声を洩らすと、彼女の唇が不機嫌そうに歪められる。

「クフフ……すいません、つい」
「……ホントに……なんなのよ……」

そこで笑っていた骸の表情にふと翳りが差したものだから、なまえはまじまじと骸に視線を向けた。

「……貴女は、僕があそこから出てくることを望んではいなかったのでしょうね」
「そこまでは、思ってない……けど」
「そうですか……それは良かったです」

細められた双眸と、頬を撫でる手袋越しに伝わる骸の体温がどうにも解せず、かといって拒むこともできずになまえはそこに立ち尽くした。

「……僕は、あそこでずっと、夢を見ていました。そこには、何故か貴女がいつも現れる……だからずっと、貴女に会いたかった」

理由が知りたくて、と骸が呟くように言うとなまえは緩慢な動きで頭を振る

「あたしにも、分からないわ」

だから、私にこんなに大事そうに触れないで。
そう思いながら、骸の手に触れた。

「……そうですか」

それだけ言って、骸はなまえから離れていった。


「貴女の出てくる夢は、とても穏やかなものでしたよ……」







あとがき
お題見た瞬間にこれは骸だろ、と。最初のお嬢さんかお姫さまかプリンセスで悩んだ。
ぼんやりと髑←骸→姫
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