まちがいだらけの
 陣痛の間隔が短くなる頃、少しだけ息を上げたフィガロ先生が寝室へ入ってきた。

「フィガロ先生……来てくれたんだ」
「ああ。間に合ってよかった。大丈夫?」
「うん……。もうすぐ、だって、言われた」

 あまりにも私が辛そうだから、見ていられなくなった夫が『"あの"フィガロ先生なら』と、どうにか先生を呼び寄せたらしかった。助産師さんもフィガロ先生のことは知っていたので、安心したように先生を部屋に招き入れた。

「少しだけ、フィガロ先生が手伝ってあげる。《ポッシデオ》」

 苦しい感覚の狭間で、下腹部にじんわりと優しい暖かさが広がっていく。心做しか痛みも和らいだ。

 新たないのちの産声が、春の陽気が入り込む寝室にこだました。

「ほら、元気な女の子だよ」

 お前が産まれた時にそっくりだ――なんて言葉を聞きながら、この子もいつか、フィガロ先生に恋をするのかなと思った。辞めておいたほうがいいわよと、せめてルチル兄さまかミチル兄さまにしたら? と、小さいうちから言って聞かせようと思った。

「よく頑張ったな」

 フィガロ先生はそう言って、汗で髪の毛が貼り付いた私の顔を濡れたタオルで優しく拭いてくれた。幼い頃、高熱を出して診療所に担ぎ込まれた遠い日の記憶が蘇る。

「うん。ありがとう、先生」

 目を細めたフィガロ先生の大きな掌が、子供を寝かしつけるみたいに私の頭を撫でた。

「よしよし、いい子だ」


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