私がよく回りの人から言われる言葉は「不器用」だった。
自分でも自覚するほど私は不器用だ。
例えば家庭科の裁縫の授業のとき縫い目が均等にならないので苦戦をしていたらブスリ。指に針をぶっ指した。隣にいた女の子が針が深々と突き刺さった私の指をみて絶叫。先生に直ぐに保健室にいけって怒鳴られたことがある。
他には技術の授業のときトンカチで指を叩いたこともあるし、美術の人物デッサンや彫刻刀を使う版画だって散々なものだった。
保育体験で子供たちにあげる折り紙も私がやるとごみくずと化した。
こんなわけで私はみんなから「不器用」というレッテルを貼られている。
私は頑張ってやっているつもりでも結果が散々になってしまうのだ。悲しくて悔しくて仕方がない。
だから私は文化祭や体育祭で使う衣装作りや飾り付けなどは頑なに断ってきた。「なんで手伝わないの。みんなでやる行事でしょ?」と言われたら仕方なく参加する。
本当はみんなと一緒にやりたい気持ちをひた隠して、私は作業を見守るのだ。
でも私には一つだけある才能があった。料理だ。
私の母は大の料理好きなので幼い頃からずっと手伝いをしてきたお陰で料理はできる。
料理だけは、胸はって出来るって言える。
私の取り柄は料理だけだよ、って私の長い長い昔話を聞いてくれた風丸くんに言うと彼は優しく笑って、机の上に投げ出された私の手を握った。
夕方、もう夕日が沈みそうな教室で私と風丸くんは机を挟んで向かい合っている。
風丸くんの以外と大きくて男の子らしい手が私のを包み込んだ。冷え性なので風丸くんの体温がじんわりと伝わってくる。
それと同時に恥ずかしくなって顔が暑くなった。男の子に手を握られたなんてはじめてだから緊張して仕方がなくなってきた。さっきまで饒舌に昔話をしていたのにね。
「お前は、料理以外にも出来てるところたくさんあるよ」
「…本当?」
「ああ。友達に優しくて思いやりがあって、何でも楽しそうに話す」
「…」
「不器用なんてなんでも諦めずに続けていればなくなるさ。お前の取り柄は料理だけじゃなくて諦めないっていう気持ちもだ。諦めの悪さは俺もよく知ってる」
「…風丸くん」
「行事は…今度から頑張って参加してみないか?みんな、お前が一生懸命やっているのを知っているから失敗を恐れないでいい」
「うん」
「良かった」
ホッとしたように風丸くんは笑って、椅子から立ち上がった。
カバンを手に取り、私に帰ろう、と促す。頷いて私もカバンを持つと暗い教室を出た。
外に出ると既に夕日は沈み、キラキラと輝く星が私の頭上にあった。
「風丸くん」
「ん?」
自転車を押しながら歩く風丸くんに話しかけた。
「どうして私が思い詰めてるって分かったの?」
「友達が思い詰めてるのくらい顔見れば分かるだろ」
「小学校からの友達でも分からなかったのに」
「…」
「何で?」
「お前をずっと見てたからだよ」
「…え?」
「深読みしても構わないけど」
「深読み?」
「…ま、まぁいいや。
とにかく、俺はどんなときでもお前を応援してるんだからいつでも相談しろよ?」
「…うん、ありがとう」
風丸くんの「深読み」の意味はよく分からないけど最後に言ってくれた「応援してる」は心にやんわりと響いた。
よし、なら頑張って不器用治して、クラスのみんなと風丸くんを驚かせてやろうかな。
ありがとう、元気出たよ。