なるたけ優しく抱きよせて、額にキスを落とす。うっすら腫れあがった目元にも。少し身動ぎした彼女が逃げないように、腰を寄せた。

「ヒロト、」

 くすぐったい、抗議する声が届いたが、聞こえない振りをしてもう一度同じ行為を繰り返す。彼女はオレに止める気がないことを察したのか、抵抗することをやめたようだ。

「どうしたの?」

 訊ねる彼女に、思わず苦笑する。それはこっちの台詞だよ。もう一度目元にキスを落とすと、その意図を察したようだった。

「無理してる」
「そんなこと」
「一人でがんばりすぎ」
「…そんなこと、」

 ない。消え入るような声で目を伏せても説得力がないと、どうして気付かないのだろう。

「だって、全部自分で決めたことだから」
「それでも抱え込めなくなるときはあるよ」

 でも、煮え切らないように口をつむぐ姿を見て、相変わらず不器用な人だと感じた。辛いなら辛いと、言えてしまえばどんなに楽か。それができれば苦労しないなんて、この子の近くにいるオレが一番よくわかってるけれど。

「本当、不器用な子だ」

 一人で泣くなんて。オレに出来ることなんてたかがしれてるけど、それでも一人じゃないってことくらいはわからせてあげられるのに、敢えて一人を選ぶ、不器用な子。
 彼女の頭を自分の胸に押し付ける。一瞬驚いたような声をあげたが、頭を軽く撫でてやると、彼女はオレの胸に顔を埋め、背中に手を回した。徐々に大きくなる、しかし押し殺したような嗚咽を聞いて、オレは小さく息を吐く。
 思いっきり、空っぽになるまで泣けばいいんだ。我慢することはない。泣き疲れたらすっきりするまで寝て、負の感情が昇華出来たらまた歩き出せばいい。そうできるまで、どんなことでも受け止めるから。
 だから今は、何も考えずに、ただ全部を外に出して。落ち着いたら一緒に、ふわふわの夢を見よう。きみがまた前を向けるようになるまで、ずっとそばにいるから。


sleep on the meringue


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