マサキくんは意地悪だ。
他の子には優しいのに、私だけに意地悪をする。
ヒロト兄さんは、マサキなりの愛情表現なんだよ。と言っていたけれど、よく分からない。
好きならどうして優しくしてくれないんだろう?
私だったら、好きな人にはうんと優しくするんだけどな。と言うとリュウジ兄さんは、好きには色んな表現の仕方があるんだよ。と言った。
リュウジ兄さんは、微笑ましいね。なんてヒロト兄さんと言い合っていたけれど、私にはどうしても納得がいかなかった。
「どうしてマサキくんはそんなに意地悪なの?」
だから私は、マサキくんに直接尋ねることにした。
「私が嫌いだから意地悪するの?」
もし、そうだと言われたら、泣いてしまうかもしれない。
「なんだよ急に?」
不機嫌そうに答えるマサキくんに、だって……と私は続ける。
「私はマサキくんのことが好きなのに……」
暗い気持ちで下を見る。
私は園のみんなのことは家族だと思っている。
だからマサキくんと仲良くしたいし、好きになって欲しい。
家族の仲が悪いなんて嫌だもの。
だけどマサキくんはそうじゃないのかもしれない。
私のやってることなんて、ただのままごとでしか無いのだろう。
だって彼には私と違って本当の家族がいるのだから。
「ば……馬鹿じゃねーの?」
そう言ったマサキくんは、赤い顔で私から視線を逸らすだけだった。
「ふぇ……」
悲しい。
「うわっ!ちょっと待て!」
すごく、すごく悲しい。
「うわあああぁぁぁん!」
「泣くなよ!悪かったって!?」
泣き出した私を見てオロオロするマサキくん。
「ふえぇぇ……うわあぁぁ!」
やっぱり、私のやってることはままごとなんだ。
本当の家族なんか、私には理解できないんだ。
「ごめんって!」
オロオロしながらマサキくんは私を抱き締めて乱暴に頭を撫でる。
「俺もお前が好きだから」
そうして私にしか聞こえないくらいの声量で呟いたのだった。
「ほ……ほんとに……?」
「ホントに」
涙目で見上げる私から視線をそらし、赤い顔で言うマサキくん。
決して目を合わせようとはしなかったけれど、それが照れ隠しだと分かったから、私は嬉しくなった。
trick or sweet
計略か優しさか
私の好きとマサキくんの好きが違うと気付いたのはしばらく経ってからのこと。
私がマサキくんへの恋心に気が付くのは、さらにしばらく経ってからだった。