放課後、机を挟んで不動くんと話す。きっかけは私が嫌なことがあって泣いていたら、忘れ物をした不動くんがやってきてハンカチを貸してくれたから。「不動くんって意外に身嗜みがきちんとしてるんだね」って言ったら「うるせえよ」と顔を歪められた。私が落ち着いた頃に、不動くんは「で、どうしたんだよ」と頬杖をついて聞いてきた。どうやら不動くんはお節介さんらしい。話すのは嫌だったけど、あの目つきで言われたら断れなかった。「うん、友達にシカトされてるの」、渋々言えば不動くんは興味なさ気に声を出す。「あっそ」。その言葉に胸が痛くなった。また泣きそうになったけど、我慢。俯いて堪えていると、不動くんは更に毒を浴びせてくる。

「お前が何かしたんじゃねーの」
「…」
「思い当たる節があるよーだな」

彼の視線が私から外れた。私が悪いのは分かってるの。私は欲張りだから。「不動くんはさ」、私の発言に不動くんの視線がまた私に戻る。「赤い糸、って信じる?」、不動くんの目が丸くなった。素直な「はあ?」。

「誰もがね、小指に見えない赤い糸が結んであって、その先には運命の人の小指に繋がっているの」
「ずいぶんとロマンチックな話だな」
「ママがね話してくれたの。でもね、私は欲張りだから赤い糸が沢山欲しいの。だからね」
「友達の彼氏を取ったのか?」
「…うん。不動くん、頭いいね。私の赤い糸をほつれさせて細い糸で繋いでみたんだ」
「お前が悪いな」

不動くんはハンカチを私の手から取り上げて、ため息をついた。呆れられるのは分かってたよ。ただ彼の眼が獣のように光っているのが気になる。身を乗り出して不動くんが話を切り出した。

「なあ」
「うん」
「もしも俺が、お前が彼氏たちを取ったってばらしてたらどうする?」

時間が止まる感覚がした。どういうこと…?問いかける前に、彼の掌が私の手首を捕まえる。恐怖が沸き上がってきた。どうしよう、戸惑う私を余所に彼の口は止まらない。「あいつらに証拠の写真見せた時の顔、傑作だったんだぜ」、極悪人の顔をして笑う彼から逃げ出したい。このままだと、私は…。

「お前の求める糸は全部俺が切った。そこで問題。夢見る甘ちゃんの唯一の糸を辿った先はどこでしょう?」
「…不動、くん」
「正解」

泥沼に嵌まってしまったような錯覚、ぎらぎらと光る彼の眼が私にそう思わせる。怖い、でも楽しい。不動くんの唇が動く。

「正解した褒美をやらなきゃなあ。さあ、何が欲しい?」
「その質問はずるいよ…」
「ほら言えよ」

不動くんが手首を握る逆の手で、私の唇をなぞって急かす。何かが背筋に走って、頭は鈍器で殴られたみたいに麻痺してる。「不動くん」、その彼の名前を呼びかけると彼の口元は吊り上がった。

「私を、他の人が目に入らないくらい夢中にして」
「了解」

今、私の頭の中は不動くんでいっぱいになっている。この胸の高鳴り、スリル。もうすでに、自信満々に答える彼に夢中なのかもしれない。鋭利な彼の視線と貪欲な私の視線が交わった。私の唇にキスが落とされるまで、あと5秒。離れた後にもう一回キスされるまで、あと9秒…。





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