おもむろに携帯を開いて、まだ買い変えたばかりで不慣れなタッチ式の操作を進めてゆく。お目当ての電話帳の画面を開いてから、わたしはすいすいと登録されている友達の名前を流していた。所謂、電話帳の整理というものだ。


(この人とはもう連絡取らないよな、いいや削除っと…。ふぅ、大分スッキリしたかな!……あ。)


ふと、ある人の名前に差し掛かって、わたしは画面をスライドさせる指を止めた。その人物の名前とは【半田真一】。しばらくはその名前を眺めながら、もう連絡は取らないだろうと考えていたのだけど、気が付いたらわたしの指は勝手に通話ボタンへと動いていた。まるで誰かに操られているんじゃないかと錯覚するかのように、それはもう自然な動きで。え、ちょっと…どうしよう!用事とか話すこともなんにもないし、いきなり電話とか。なんて頭の中は大混乱。わたわたと慌てるあまりに電話を切るという行為すら忘れて。聞きなれた機械音が数回してから、『もしもし…?』と耳元に半田であろう声が聞こえてくる。その声を聞いて、わたしの心臓がばくばくと鼓動を早めてゆくのが分かった。こうなりゃヤケだ、このまま会話してやろうじゃないの!


「あ、えと…半田、久しぶり」
『…いきなりだからびっくりした』


そりゃそうだろうなぁ、なんせわたし自身びっくりしているのだから。わたしは、ハハハなんて乾いた笑い声を送る。なんで電話なんかかけちゃったんだろう。そもそもなんで半田の名前でわたしは指を止めてしまったの。依然わたしの頭はぐちゃぐちゃ悶々。そのせいで沈黙が続く。早くなにかしら話題を出さねば、そう思っても上手く言葉が出てこない。するとそれを打開するかのように『本当に、久しぶり。変わってないな』と、携帯の向こうから落ち着いた声がわたしの耳に伝った。瞬間、胸の奥がじんわりとしたような気がする。そのおかげか先ほどまでうるさかった心臓も、ぐちゃぐちゃだった頭も、だいぶ落ち着きを取り戻したようで今度はすんなり言葉を出すことができた。


「本当にいつぶりだろう…成人式以来かな」
『そうだな、かれこれ4年は連絡とってなかったよな』


そうか、もうそんなに半田と連絡を取っていなかったのか…。長いような、短いようなとても不思議な感じだ。


「どう、今まで元気にしてた?」
『お陰さまで。普通に会社に勤めて、普通に不自由なく生活してるよ』
「ははっ普通かぁ。半田も相変わらずだねぇ」
『ほっとけ!』


それから続ける会話は、まるでこれまで連絡を取っていなかった時間を埋めるかのように弾んで。先ほど話すことがないと考えていた事が嘘のように、沈黙なんて物はまったく見当たらなくて。その内容はそんなたいそれたものではなくて、至って平凡な世間話だったけれど、わたしにはそれがとても楽しくて、キラキラとしているように思えた。時折聞こえてくる電話越しの音で「今○○してたでしょ〜」『ちげぇよ!』なんていうやり取りをして笑いあったり、「会社の上司ったら酷いの!」『落ち込むなよ、そんな時もあるって』愚痴をこぼして励ましあったり。そういえば、お互いが学生だったあの頃はこんな半田との通話が楽しくて何かに取って付けなくとも連絡を取り合っていたなあ。なのにいつからかそれはぱったりと止んでしまっていて…。あぁ、そうか。今わかった。なんでわたしが半田に電話をかけてしまったのか。


「ねえ半田」
『んー、なんだよ』
「…わたし、寂しかったのかも」
『え、なに?』


ぽそりと呟くように紡いだ言葉は、どうやら半田には聞こえていなかったらしい。わたしは「やっぱりなんでも無いよ」と一言伝えて、小さく笑った。


『なんだよ』
「だからなんでもないって」
『そう言われると気になるんだけど』
「じゃあさ、また電話しても良い?」
『…え、あぁ、構わないけど?』


「そしたらその時に教えてあげる、」


それじゃあ、またね半田。
『ちょっと!』と言う半田の言葉を遮って、わたしは強引に通話終了のボタンを押す。それから、ふふ、と溢れる笑いを抑えながらわたしは半田の電話番号を眺めていた。

半田の番号はワンタッチダイヤルに登録決定、かな。



通話
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -