女の子が甘いものが好きだなんて、誰がそんなこと言ったんだろう。
バレンタインデーなんて行事だっていらない。なぜチョコを男子なんかにあげなければならないのだ。チョコがもったいない。というよりお金がもったいない。

でも世の中の女子はにこやかに男子にチョコをあげたりして、それで恋人同士なんてものができたりして。
世の中なんてものはお菓子で回ってるのか。ああもう、本当にばかばかしい。お菓子だけじゃない、いろんなこともだけど。

「ねえそう思わない風丸」
「おまえの脳内の会話で何を話してたのか知らないけど、同意を求めるのはやめてくれ」
「えー」
「というか早く勉強しろ」

そう言って、隣に座っていた風丸は私にシャーペンを渡してきた。渡されたシャーペンは、私が勉強しているのに飽きてきて、ノートに転がっていたものだ。
わざわざ渡してくれなくてもいいのに、と思いながらもそれを受け取り、ノートに目を戻す。

ちょうど問題が、苦手な数学なところで止まっていた。

「うーん」

何度考えても式が浮かんでこない。ふと風丸は何をやっているんだろうと気になって、ちらり、と隣を見ると風丸は真剣な顔つきで問題に取り組んでいた。
そのまま風丸のノートに目を移すと、なんと数学はやり終わり、次の英語をやっている。

驚いて思わずまじまじとノートを見つめていると、突然目の前に手が現れた。

突然の出来事に何も反応できずにいると、そのまま手は私の顔に近づいてきた。私に当たると思った瞬間、ぱちん!と音が響いた。

「痛っ」
「真面目にやらないで、俺のばっかり見てた罰だ。…ほんと、真面目にやれよ?」
「はーい…」

これ以上はしゃぐと、風丸の怒りの鉄槌が下されそうで怖い。
始まって30分。ようやく私は真面目に勉強に取りかかることにした。



***



「つかれた…」

出された課題が全て終わったのは、あれから2時間後だった。
明るかった外は既に陽が落ち始めていて、私はごろりと寝ころがった。

「お疲れさま」
「風丸も、お疲れさま」
「ああ」

私の言葉に風丸は、そう言って微笑んだ。


しばらく二人でぼんやりしていると、不意に風丸がふと思い出したように立ち上がった。

「どうしたの?」
「ちょっと、思い出してな」

風丸はそう言って、部屋の隅にあった自分のバックを開けた。
少し探って、目当てのものを見つけたのか満足げにそれを出す。

「ほら、これ」
「え?」

目の前に差し出されたのは、小さな袋に入った金平糖だった。

何が出るかと思ったらお菓子が出てきたので、私は驚いて風丸の手のひらの中のそれをまじまじと見つめる。

「これ、どうしたの?」
「この前、円堂に連れられて駄菓子屋に行ってさ。何も買わないのも悪いと思って買ったはいいけど、結局俺は食べなくて」
「…くれるの?」
「こんなタイミングで出したんだから、当たり前だろ」

風丸ははい、といって私に差し出してきた。受け取らないわけにもいかず、私はそれを受け取る。


お菓子、苦手だって言ってないんだよなぁ…。


内心苦笑いしながら金平糖を見つめる。袋の中のそれは、窓から差し込んでくる夕陽の光が当たってきらきらと輝いていた。

「…ほら」

見ているだけでまったく食べる様子のない私に、風丸は袋をから一粒とって渡してきた。

恐る恐る金平糖を口に含むと、思ったよりも甘ったるくない、素朴な味が口の中に広がった。

「…おいしい!」
「そうだろ?店内一番のお勧めだって言われたんだぜ」

風丸は私の少し驚いたような表情を見たのか、嬉しそうにそう言った。

「好きだと思ったんだ」
「私が?」
「ああ。なんか、チョコとか甘ったるそうなの嫌いそうだからな」

風丸の言葉を聞いて、私はそっかと呟いた。
ちゃんと脳内の会話が伝わっていたことが、少し嬉しいような、微妙なような。

「ありがと、風丸。これ、凄く美味しいね」

私がそう言って笑うと、風丸も一粒食べたのか、そうだなと言って笑った。

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