人間の記憶力なんてたかが知れたものだ。長い歳月を過ごした母の子宮の中の記憶すら残っていないのだから。だから人間は記憶の引き出しとして写真や日記を利用する訳だが、果たしてそれらは何れ程の役割を果たしてくれるのか。きっと、今こんな事を必死で考えている事だっていつかー、否、こんな小さな事一時間後に覚えているかすら怪しい。ね、こんな風に考えたら必死に生きる事が馬鹿らしくなって来ない?

「何だそれ、お前もうちょっと楽に生きろよ。」
「私は自分の欲には忠実なつもりだけどね。」
「ふうん、ま、お前が良いって言うなら良いんだろうな。」

そう言った蘭丸の瞳は何も映していなかった。多分、私以上に人生に価値を見出だせていないのは他でも無いコイツだ。それなのに私に忠告とはコイツも偉くなったものである。

「似てんだよな」

蘭丸が呟いたのを私は聞き逃さなかった。何が、と問うと蘭丸は此方に視線も向けずに口を開いた。

「俺とお前がだ。容姿じゃ無くてな、思考が似てる。お前見てると自分見てるみたいで気持ち悪いんだよ。」

奇遇だなあ、私も同じ事考えてた。扨、このやり取りと蘭丸と私の瞳に浮かぶ涙の記憶が消える日はいつだろうか。初めて世界を美しいと思った。


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