萌えは世界を救います



「若、ちょっと」

 メフィ兄の部屋でくつろいでいたら、いつになく真剣な顔をしたメフィ兄に呼ばれた。
何かあったのだろうかと素直に机の方へ近づく。
メフィ兄は机に肘を付いて口の前で手を組んでいた。

「何ですか?」
「実は頼みたい事があるのですが、若には少し…難しいかも知れません」

 重々しい口調に緊張がはしる。
メフィ兄がこれだけ深刻な顔をするということは、かなり厳しいのかもしれない。
しかし難しいほうがやりがいがあるというものだ。
私は期待に胸を膨らませながら聞いてみた。

「討伐ですか?それとも侵入とかですか?」
「いえ、違います…今回は私も、危ないかも知れません」
「そんなに…?」
「正気を保てるかどうか…」
「メフィ兄が?」
「はい、相当な危険が予想されるので若には関わらせたくなかったのですが……どうしても若が必要で、」

 すみません、と言ったメフィ兄はとても辛そうだ。
危険で尚且つ私が必要不可欠なこと。
さっぱり想像もつかないけど、

「わかなら大丈夫です、必ず遣り遂げてみせます。何をすればいいですか?」
「いや、やはり若にこんなことをさせるなんて」
「大丈夫です。わかは大丈夫ですから」
「若…」
「何をすればいいか教えてください」
「…では、まずこれから言う言葉を復唱して下さい」
「はい」

 復唱?何か呪文だろうか。
メフィ兄は息を吐きながら俯く。
そしてゆっくりと上げられた顔には決意が表れていた。
強い意思を帯びた瞳が真っすぐ向かってくる。
私はいよいよかと身を強ばらせる。
メフィ兄の口がゆっくりと開かれ言葉が発しられる。

「“兄さま”」
「ニイサマ」
「……“お兄ちゃん”」
「オニイチャン」
「“大好き”」
「ダイす、……」
「“大好き”」
「……これ…」
「若、ちゃんと復唱しなさい。“大好き”」
「……」
「若、必ず遣り遂げるというのは嘘だったのですか?
若がそんな嘘つきになってしまったとは残念です。
はあー自分の言ったことも守れないとは、今日のお仕事はアマイモンに頼みましょうかね。
なかなか強そうな相手なので若にぴったりかと思ったのですが…」
「……ダイス…」
「え?ダイス?サイコロですか?聞こえませんもう一度、さん、はい!」
「っっダイスキ!!」
「エクセレンッ!!いいですよ若最高です!!」
「ク、ソッ…!」
「女の子がそんな言葉を使ってはいけません、さあその調子で続きいきますよrepeat after me!!“お兄ちゃん、大好き”!」
「オニイチャンダイスキッ」
「もっと抑揚を付けてはい!」
「お兄ちゃん大好きっっ!!」
「ばっちりですいいですよ!!ちゃんと出来るじゃないですか次いきましょう次!!」
「まだあるんですか?!」
「もちろんです!まだまだこれからですよ☆」

 そう声高に言い放ったメフィ兄の手元には何かびっしりと文字が書いてあるメモがあった。

「…クッ、下剋上っ!」
「違います“今日一緒に帰れる?”です!」






オワリ






きっとこの会話は録音されて後に編集されます。メフィ兄はしばらくまともに会話してもらえなくなります。何だこれ。





モドル







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