「あ、あーさま‥。」

トオルが目を開けたら、アマイモンの顔が間近にあって目が合った。

それからトンと足が床に着いたので自力で立った。

トオルは思い出したようにハッとして自分の両手を確認すると、買い物袋が無事握られていて、ホッと胸をなで下ろした。

「兄上、ゴリゴリくんとトールを持って来ました。」

アマイモンがトオルの後方に向かって言った。

すると声が聞こえる。

「なんですかアマイモン、お遣いのメモにトオルくんとは書いてなかった筈ですけど。」

トオルは後ろからした声の主を振り返って見た。

「フェレスさま!」

見ると、そこにはティーセットの用意された椅子とテーブルがあって、浴衣姿のメフィストが携帯ゲーム機を片手に、見るからにくつろいでいた。

「なんでもいいですけど、ゴリゴリくんソーダ味はどうしました?」

「あ、ここです!」


トオルがゴリゴリくんの入った袋を持ってメフィストの前に進んだ。

メフィストはトオルからゴリゴリくんを受け取ると、包装を破き中身を見てひと口かじる。

「絶妙な溶け加減ですね‥84点。」

「う、はい‥。」

とりあえず80点台なのが良かったのか、なんなのかは分からないがトオルは返事をした。

「トール、ボクのお菓子は。」

アマイモンが両手を伸ばして促したので袋ごと渡した。

お菓子の袋を受け取ったアマイモンは、メフィストの向かいに側にある椅子に座ってガサガサと食べ始めた。

途端、悪魔2人がマッタリとし始め、食べる音とゲームの音楽がするだけの、ゆるい雰囲気の空気を醸す場になって、トオルは取り残された感じで、どうしたものかと少々悩んだ。

(わ、わたし帰るべきじゃないだろうか‥。

でも、あーさまが、

どうしよ‥。)

トオルは腕組みして考えた。


「トオルくん、」

メフィストがゴリゴリくんをかじる間に声をかけた。

「椅子は自分でそこの部屋の中から持って来なさい。」

「は、はいっ。」

言われてまずトオルは初めて、自分が屋外のテラスのような場所に居ることに気づいた。

広く、遮る物が無くて見晴らしがいい。

さすがに学園最上部の屋敷だけある。

眼下の正十字の夜景は普段よりもスケールが違うと思えた。

「トオルくん、ボケッとしてないで、どうするのか決めてくださいよ。」

「びゃ!はい!」

確かに、ただ立っているのはどうかと思って、トオルは素直に室内から椅子を持って来てテーブルの一画を控えめに借りた。

「お邪魔します。」

「まあどうぞ。

‥トオルくん、よく見たら、なんとも色気のかけらも無い格好ですね‥。

気の抜けた女子校の生徒みたいですよ。」

「‥う、すみません、お目汚しです‥。」


「もぐ、トールは服を着ているのに、何かおかしいのですか?もぐ、」

アマイモンがお菓子を食べながら言う。

「気にならないならそれで結構。

トオルくんの方には言い分はありますか?」

ゴリゴリくんを食べ終えたメフィストが、アマイモンもトオルも見ずに、携帯ゲームを操作しながら言った。

「返す言葉もありません‥。」

「言い訳しないのはよろしい。

というか、アマイモンの言いなりになってばかりでは行動が進歩しませんよ。」

どうせ寝込みを引っ張り出された、そんな所だろうとメフィストは察した。

「ご明察です。

靴下を履けたのがせめてもの救いです‥。」

「どんな救いか疑問ですね‥。」

「シューズの蒸れから足を救ってくれます。」

トオルの言葉にメフィストは、つい思わず、なるほどと思ってしまい、しまったと微妙な気分になった。

「私としたことが!」

メフィストが眉間を寄せてぼやいた。







モドル








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