招かれざる客に意識が浮上する。薄目を開けて見ると、暗闇の中にトンガっている物体が見えた。その特徴を確認してまた目を瞑る。
「おはようございます」
このまま寝たふりをしたらいなくなるだろうか。
そんなことを思いながら、頭はトンガリの気配を追い続ける。たぶん今それはベッドの前に立っている。そして私を見下ろしている。
トンガリはしばらくそのまま立っていたが、一向に動きださない私にしびれをきらし動きだした。しゃがんだのか、気配を近くに感じる。
「起きて下さい」
声とともに肩をゆさゆさと揺らされる。目を開けたら負けな気がして目蓋に力を入れ直す。
まだ眠いのに起きてたまるか。本当に空気読めないなこのトンガリ。
起きる気配の無い私に諦めたのか、肩から手を離した。これで解放されるかと思いきや動く気配がない。呼吸音だけが静かな部屋に聞こえている。そのうち眠気は意地に完全に移行し、寝ているふりをひたすら続ける。
ようやくトンガリが動きだし、ついに帰るのかと思いきや顔面に感じる生暖かい息と鼻に触れる何か。我慢できずに目をバッと開けると、アー兄の目が目の前にあった。
「起きちゃいました」
「……何してんですか」
アー兄は頭を持ち上げ、顔を離した。
「ゆすっても反応がないのでチューしたら起きるのかと思って」
「……アー兄、わかは眠られた森のアレじゃないですからね」
「そうなんですか?」
ぼけているのか本気なのかわからないアー兄を脇にどかして床に立つ。あくびをしながらカーテンを開けると眩しさに目がくらんだ。
取り敢えず着替えようかと振り返ると、真後ろにアー兄が立っていた。
「では行きましょうか」
「は、どこに、ってうわ、ちょ」
「トォッ」
抱き上げられ、ガラッと開いた窓から掛け声とともにダイブする。開けっぱなしの窓の脇に、カーテンが揺れているのが遠くに見えた。
取り敢えず今までのことを整理するか。まずアー兄が部屋に不法侵入をして、無理矢理起こされて、窓から出発、今現在横抱きにてどこかへ向かっている。…整理するまでもなかったか。
というかまだ顔も洗ってないし、着替えてもない。この状態で一体どこへ行こうっていうんだ、ピョンピョン軽快に跳びやがって。とにかく今最優先すべきなのは
「寒い!!」
「そうですか?」
「…誰かさんのせいでわかはキャミと、ショーパンの、ままなんです!寒いですよ夏じゃないんですからね!」
「では、これでどうですか?」
少し怒りながら訴えるとアー兄は器用に上着を脱いで、私にそれを被せた。直接当たっていた風が弱まり、体に熱が戻り始める。
「無いよりは…マシです。けど」
「けど?」
アー兄は、ワイシャツにベストだけで寒くないのか?いやでもそもそもの原因はアー兄にあるわけだし。それにそういえば、夏でも冬でもあまり服装変わらないし…悪魔は温度感覚おかしいんだな。そういうことにしておこう。
「何でもないです。とにかくいい加減どこに向かってるのか教えてください」
「兄上の部屋です」
アー兄はさらりと行き慣れた場所を言う。
メフィ兄の、部屋?
「昨日行ったばっかりじゃないですか」
アー兄も一緒にいたはずなんだが。
「今日は違うんです」
「何がですか?」
「探偵です」
今日もアー兄はどこかおかしい。
「大丈夫ですか?」
「先日、兄上の部屋の天井に穴を開けておきました」
「…怒られますよ」
「だからそこから覗いて調査をするのです」
「なんでまた」
「ソコー調査です」
「…それ、どうしてやるんですか?」
「兄上が普段何をしているかの調査です」
「いや、何を調査するんじゃなくてですねぅあっ」
一際大きく跳んだ衝撃で、危うく舌を噛むところだった。アー兄に向けていた顔を反対側に向けると、そこには見覚えのある屋根があった。
「あっちから入れます」
あっという間に見慣れた建物につき、屋根に降りた。ゴツゴツとした感覚を踏み締め、裸足なことに気がつく。
屋根の冷たさに爪先で立っていると、アー兄が少し進んだところで屋根を指差していた。
→
モドル