バッと穴を反射的に見て、上を見ているメフィ兄と目が合いそうになってバッと顔を引いた。
(っ…!!)
『………ねずみ、ですかねぇ…今度駆除でも頼みましょう』
一気に跳ね上がった鼓動に胸を押さえて深呼吸をする。
深く追求されなかったことに安堵すると同時に、アー兄をギッと怒りを込めて睨む。
しかし全く反省していない様子にいつものことと諦めて、またそっと覗きに戻った。
『そういえばあれを貰ったんでしたっけねぇ』
そう言って机の脇の方に手を伸ばし、メフィ兄は箱を手に取った。
『ジャーン☆高級煎餅セットです』
(!!)
『若が確か好きでしたから、呼んでお茶でもしましょうかね』
メフィ兄はポケットからじゃらじゃら鳴らしながら携帯を取出し、操作し始めた。たぶんというか絶対私への電話かメールだ。
鳴ったらばれる!と、慌ててポケットに手をやるが何も無い。そういえば何もしないうちにアー兄に連れてこられたことをふと思い出した。
そっと息を吐き出し、良いんだか悪いんだか複雑な気持ちでまたメフィ兄を見る。携帯電話を耳に当てているということは電話をしているのだろう。
『でませんね…』
出ないのに諦めて切ったようだ。メフィ兄は携帯を机の上に置いて箱を見つめる。じっと、見つめる。
そして、しばらくしてから急に頷いた。
『食べちゃいましょう☆』
包装紙のテープを爪で器用に切っていき、あっという間に箱は裸になった。メフィ兄は蓋をそっと開けて脇に置く。
(…あれはもしかして)
『おや、ぬれせんべいが入っているとは珍しい…若がいないのが尚更残念ですね』
(やっぱり!!)
(ぬれせんべいってしけっているやつですか?)
(違います!独特の歯応えのするなんとも素晴らしい食べ物です!)
『しかたありません、電話に出なかった罰としてぬれせんべいは私がおいしく頂きましょう☆』
(ボクはあれ、嫌いです)
(アー兄はただの味覚音痴なんじゃないですか?コントローラーでも食べてれば良いんですよっ)
(ピンクのやつおいしかったですよ)
『ああ、お茶でも入れてきましょうかね』
やっぱりお煎餅には玉露ですね〜なんて呑気なメフィ兄は奥に消えていった。
アー兄に構ってたせいでよく聞いていなかったが今、電話の罰としてぬれせんべいがどうとかって言っていた気がする。
ああ!こんなことなら空中でこのトンガリ仕留めておくんだった!!
(声出てますよ)
(え?………あ、はい、…じゃあそういう訳でわかは急用が出来たので帰りますね)
(ダメです。まだ何も調査してないです。)
(もう終わりました。メフィ兄は仕事仲間はいてもお茶に誘える人はわかくらいしかいない可哀相な寂しい悪魔でした以上。では…)
元来た道を戻ろうと、音をたてないよう四つんばいで進む。しかし足首をがしっと捕まれ、進めなくなってしまった。
(離してください)
(ダメです)
(わかは一刻を争う事態なんですわかりますか?終わったらきっと戻ってきますから)
(ダメです)
(アー兄、我儘言わないでください)
(若がいないとつまらないです)
(ならやめればいいじゃないんですか?)
正直スリルしかなく、おもしろくも何も無いものに付き合うより、今すぐにこの下の部屋に行ってぬれせんべいを確保したい。
アー兄が何かを考えているのかなんなのかわからないこの時間ももったいない!
早く離してくれないかと忌々しくみていたら、天井を爪で引っ掻きだした。
(アー兄?何してるんですか?…まさか、ちょあ、わかはあっちの穴から出るんで!っ離せ!)
(トン♪)
次の瞬間にいたのは、今まで覗いてた部屋だった。
「っー…」
「大丈夫ですか?」
「……大丈夫じゃあ、ないですよ!アー兄が、足、掴んだままだから!変な体勢でっ着地っていい加減離せ!!」
「はい。これでぬれせんべい食べれますね」
埃で視界が若干曇るのを手を振って拡散させる。床をみると天井だった物が落ちていた。ごまかしようのない現実に思考がダウンしかける。
「…とりあえず、逃げるか」
「どこにですか?」
「あ、兄上」
力強く掴まれた肩にある手を辿ると、ティーセットを片手に持つメフィ兄がいた。ニヤリと笑っているメフィ兄に、これだけ大きな音を出して気付かないわけが無いと、妙に冷静になった。
「二人とも、そこに座りなさい。お茶も入ったことだし、ゆーっくり、こと細かく聞いてあげます☆」
「「はい」」
二度とアー兄になんて付き合わない。そう、強く誓った。
オワリ
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モドル