「ジャーン、ココです」

 近づいてそこを見ると、大人一人が通れるくらいの穴がいびつに開いていた。

「これ、メフィ兄気付いてないんですか?」
「まだ雨が降っていないので大丈夫だと思います」
「思います…ね、」

 アー兄はその穴に足から入っていく。ここで待っていても仕方がないので、それに続いた。
 屋根裏は意外と広く、アー兄のトンガリが擦れるか擦れないかの高さだった。這いつくばって移動するのかと思っていただけに、有り難いが少し拍子抜けだ。

「では行きましょう」
「はい」

 スタスタと進むアー兄に、気を付けながらついていく。屋根裏は薄暗いが、手探りをするほどではない。埃か砂か歩を進めるたび、足の裏にざらつきを感じる。
 せめて靴下があればな…

「あの柱から向こうが兄上の部屋になります」

 アー兄の指先を辿ると、少し太めの木があった。その向こう側には無数の光の線が立っている。
 あれは全部、穴か?

「…どんだけ穴開けたんですか」
「いっぱい開けたほうが見やすいかと思いまして」
「ものには限度っていうものがあるんです知ってましたか?」
「エヘ」
「エヘじゃないですよまったく。天井が抜けたら怖いのであそこからは慎重に進みましょう」

 そして柱の前につき、一旦止まり、隣からスッと通り抜けようとするアー兄の腕を掴む。

「何普通に進もうとしてるんですか」
「ダメですか?」
「駄目です。メフィ兄にばれたらどうするんですかていうか慎重に進みましょうって言ったばっかりなんですけどその尖った耳はお飾りですか?」
「若の耳も尖ってますよ」
「そういう問題じゃない!わかはメフィ兄にわざわざ怒られに行く気は無いですからね!」

 クソッ、冗談じゃない。今回はメフィ兄の弱みを握るのが目的なのに、逆に握られてたまるか!

「そんなに大きな声出したら気付かれちゃいますよ」
「っ!!……と、とにかく、ここからは膝をついて静かに進みましょう。天井が抜けても嫌ですからね」

 そしてアー兄がしゃがんだのを確認して、部屋に四足歩行で侵入をする。気を締めて、物音をたてないように注意を払いながら進むが、部屋が広いうえに動きを制限されていて思うように進めない。
 時間をかけてやっとのことでドアから窓際まで確認したが、メフィ兄は見当たらなかった。

(メフィ兄、いないんですかね?)
(はい、まだ出かけていると思います)
(あ、そうなんで…)

 聞き捨てならない言葉に、アー兄を凝視する。

「なんで、知ってるんですか?」
「昨日、片目を隠した男が兄上と話しているのを聞きました」
「へえ?なるほど?……そういう大事なことは先に教えてください!無駄に神経使ったじゃないですか!!」
『ではよろしくお願いしますね』
「あ、帰ってきたみたいでムグゥ」

 ドアのほうから聞こえるメフィ兄の声に、とっさにアー兄の口を押さえ室内の音に神経を集中させる。ドアの前まで誰かといたようだが、そこで別れたのか一人分の足音しか聞こえない。音から机の方に向かったことを確認し、アー兄の方を向く。口の前に人差し指を立ててジェスチャーをし、アー兄はそれに素直に頷いたのを見てそっと手を離した。

(行きますよ!)
(はい)

 そろそろと机の方へ向かう。木に体をぶつけないように慎重に、かつなるべく早めに動く。至る所にあるアー兄の開けた穴を覗きながら進む。

(もう少し先か?)
(ここから見えます)

 少し先にいるアー兄は一つの穴を指差していた。それに近づき息を殺してそっと覗く。

(…浴衣だ)

 しかもさっき見たときにはなかった茶菓子が机の上に置いてある。
 さすが…と早業に感心していたら、隣で不穏な動きをアー兄がしているのに気づくのが遅れてしまった。

(…何してるんですか)
(穴がもう一つあった方がいいかと思って)
(やめて下さい!気付かれたらどうするんですか!?)
(でももう開いちゃいました)
(なっ…!)
『…木屑?』











モドル








人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -