かろうじて聞き取れるその言葉に、メフィストは雨ではなく台風だと、思考を改めた。
いつもの生意気な口はどこに行ったのかと、まじまじと見てしまう。
しかし日吉は本気のようで、じっと、不安そうに見つめる。
(これは、いけませんね)
メフィストは言い聞かせるようにゆっくりと、丁寧に語り掛けた。
「若、大丈夫です。
私はずっと、若のそばにいます。
今までも、これからも、
…今も、変わることはありません」
わかりましたか?と言うメフィストに、日吉は小さく頷く。
そして、安心したのか手の力を弱めた。
メフィストは今一度頭を撫で、浴衣を握っている手を自らの手で包み込んだ。
「若、もう寝なさい」
そう言いながらメフィストは日吉の両の目蓋に、バードキスをした。
それにより日吉は目を閉じ、意識をまた沈めていく。
「メフィ兄、おやすみなさい…」
「おやすみ、」
寝息が聞こえて、また眠ったのだと分かる。
それを確認しメフィストは軽く息をつき、慈しみを帯びたような表情をする。
(やれやれ、どんな夢を見たんですかねぇ)
握っている手を撫でながら、憶測をする。
こんなにも珍しいものを見られるのなら、たまにはいいものだと不謹慎なことを考えながら。
そしてそれは、すぐに企みの顔に変わる。
(夢を操るのは、どうするか)
楽しいことを見つけたと、メフィストは笑みを深くした。
笑いだしそうになるのをこらえ、目の前で安らかに眠る日吉を見やる。
(私が、こんなにも愛らしく、オモシロイものを、どうして手放せようか)
メフィストは日吉の顔に近づき、唇と唇を合わせた。
(若は、私のものですからね)
オワリ
→
モドル