「明日の予報は、雨でしたかねぇ」
就寝用の浴衣を身にまとい、メフィストは部屋に訪れた。
ベッドの前に立つと、いつもはいないはずのものを認める。
整えられていたはずのそこは乱されて、丸まる物体が一つ。
目がかろうじて外に出ているそれは、身動き一つしない。
メフィストはその光景を、面白そうに観察する。
「怖い夢でも、見たのですか」
静かにベッドに腰を掛け、より近くでそれを見る。
色素の薄い髪に手を伸ばせば、サラサラと滑り落ちる。
「…綺麗ですね」
しばらく感触を楽しんでから、顔にかかっている髪を後ろにどける。
頭をやさしく、そっと撫でながら、普段は隠れてしまっている額と目元をよくよくと見る。
切れ長の目は閉じ、丸みを帯びた額がさらされ、いつもよりも幾分か幼く感じる。
「しょうがない子ですねぇ」
爪で傷つけないように気を付けながら、親指で額をなぞり、そのまま指を滑らせ髪を梳く。
「…若、私も寝ますから、もう少しそちらへよって下さい」
「……ん」
頭を撫でるメフィストの手に、意識が浅くなっていたのか、寝呆けながらに意味を理解し、日吉はもぞもぞと動いた。
「いい子ですね」
メフィストは無防備なおでこに軽く口付け、日吉の方を向く態勢で布団に入る。
薄目にそれを見ていた日吉は、メフィストが落ち着いたのをみて浴衣に手を伸ばした。
「そんなに強く握ったら、皺になってしまいますよ」
実際は皺など気にしているわけではなかったが、ついからかうようなことを言ってしまうのは、性であろうか。
しかし日吉は気にせずに、強く握った手を離さない。
そしてまだ寝呆けているのか、ぼんやりとした目付きでメフィストの方を見る。
「………メフィ兄、」
それはとても、とてもか細く、空気に紛れてしまいそうな声だった。
「どこにも、行っちゃ、…ゃです」
すがるように、懇願する。
「わかを、…置いて、行かないでください」
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モドル