「似合ってますよ、浴衣」



流石私が選んだだけありますね、と満足気に髭をいじっているのはメフィストである。

ここはメフィストの例の広い部屋。
そこで日吉はメフィストが用意した浴衣を着ている。


浴衣はクリーム色を基調としていて、そこに色鮮やかな花の模様が映える。
さらに襟元にはさり気なくレースがあしらわれている。
帯はやわらかいピンク色で、頭には柄と同じようなデザインの花飾りを付けているといった、全体的にかわいらしい感じになっている。


照れ臭そうに礼を言う日吉をみて、アマイモンが

「ボクも似合ってますか?」

とメフィストに聞く。



「ああ、似合ってる」



アマイモンも浴衣を着ていて、こちらは濃紺を基調としたゴシック調の浴衣である。

アマイモンはメフィストの言葉に「わーい」と喜びながら、日吉に近づいていく。



「若はカワイイですね」

「アー兄のは、カッコいい?」



浴衣効果で普段よりもテンションが、心なしか高い2人。
微妙に違う観点の褒めあいをしながら、戯れる様をメフィストは

若いって良いですね☆

みたいなノリで少し離れたところから見ている。

そんなメフィストは、いつもながらの奇抜な浴衣を着ている。




「さて2人とも、今日は浴衣を着るためだけに集まったのではありません」




と声をかけると、同時にその方向に向く2人。
メフィストはそれを確認し、言葉を続けた。



「ここで問題です。今日は何の日でしょうか」



急に問い掛けられたことに、答えを探してみるが、特に記念日があったような記憶がない2人。
分からずにキョトンとしているのを見て、メフィストは楽しそうに解答を教える。



「今日は、7月25日ですね。7、2、5、この数字の語呂合わせで、な、つ、ごおりとなるわけです」


「なつ、ごおり?」


「はい、夏に氷と書いて夏氷。つまりはかき氷です。」

「兄上、かきごおりとは、なんですか?」



「今から作りますから、よく見ておきなさい」

と言いながら机のうえに置いたのは、庶民の味方、



かき氷メーカー!
(ペンギン1号)



ふふんっ
と自慢気なメフィストに、初めてみるペンギン型の物体に興味津々の2人。

日吉は何回か外で食べたことがあったものの、作って食べるのは、初めてのことであり、アマイモンにいたっては、かき氷事態が初体験である。

メフィストは氷、様々な種類のシロップ、涼しげなガラスの器に、スプーンと、必要なものを机上に用意していく。

そして、2人に簡単に説明をしながら作りはじめる。



「先ずはこのペンギンで氷を削って細かくします」



ゴリ、ゴリゴリゴリゴリゴリ…



メフィストが回すと、徐々に出始める氷の欠けらに、目を輝かせる2人。
アマイモンは落ちてくる氷を指で受けとめて、確かに氷であると確かめる。

メフィストはキレイな山形に整え、満足したのかシロップのコーナーへ移動する。



「さて、氷の準備が出来ましたら次は味付けです」



「これを全部かけるのですか?」

と質問をしながらシロップが入っているビンを、珍しそうに片っ端から見ていく2人。



「そうですね、全部かけてもいいですし、一つだけでも構いません。要は個人の自由なのです」



用意してあるシロップはイチゴ、レモン、ブルーハワイ、メロンに練乳と、定番なものが揃っている。

メフィストは今日はどれにしようかと、少し悩んだ末にイチゴと練乳の組み合わせにすることにした。

それは日吉の浴衣の色と同じような色合いだったが、きっと気のせいであろう。



「さあ、今の要領で作ってみなさい」



メフィストは一足先に食べながら、2人を見守る。



アマイモンと日吉は早速ペンギン1号に取り掛かる。
先ずはアマイモンが器をセットし、ハンドルを回す。
しかし、最初は少し出たものの、次第に出なくなってしまった。



「兄上、出ません」



「……氷がなくなったのです、足しなさい」



アマイモンは言うとおりに氷をペンギンの中に入れ、蓋を閉めようとするが、閉まらない。

「アー兄、入れすぎ」

と日吉がアマイモンの手をどかし、氷を少し減らす。

そうしてようやくセットし終わり、気を取り直してまた回し始める。



ゴリ、ゴリゴリゴリゴリゴリ…



今度はメフィストがしていたときのように、氷が出てくるのを見て、シャリシャリと音をたてて軽快に回していく。

先程のかき氷のように、きれいな山型にはならなかったものの、こんもりと盛られた氷に満足したのか、日吉と交代した。

そして日吉も同じように氷を削ってゆき、何とか形にした。



「どれにしようかな」



アマイモンも迷っていたみたいだが、メロンに決めたようで、たっぷりと注いでいる。
日吉も迷ったが、食べたことがないブルーハワイにすることに決めた。



「冷たいですけど、おいしいです」



だけど、メロンの味はしませんね、とシロップ会社にとって痛いところをつくアマイモン。



「まあそんなものだ。それより、こっちへ来なさい」



メフィストが向かった先は、8畳分ほどの広さのあるテラスである。

中と違い、空調のきいていない外は、日が沈んでしばらく経っているといっても、昼間の猛暑を窺い知れるほどに暑い。

しかしその暑さのおかげで、手に持つ氷の入った器が、とても気持ち良く感じる。



「明かりを消すぞ」



パチンッ



と指をならすとテラス周辺の照明が一斉に消える。



「何をするんですか」



と日吉が尋ねると「シィッ」と口の前で人差し指を立て黙らせる。
そしてそれは始まった。




ドンッ





ヒューーー…





ドンッ



ドンドンッ





花火である。
夜空を彩る光の花に、見惚れる日吉に、火薬?と雰囲気を壊すようなことを呟くアマイモン。

次々と打ち上げられる花火は、多種多様な花を魅せた。

普段とは違うものを着て、かき氷を食べながら見る花火は、暑さを忘れさせ、現実から遠ざける。


しかし、それはいつまでも続くものではなく、食べおわる頃には花火も終わってしまった。





「さ、戻りましょうか」



室内へ戻るとともに明かりもつき、さっきまで咲き誇っていたものが、まるで夢のであったような感覚に陥る。






「メフィ兄、ありがとうございました」


日吉はテラスでのことを、いたく感動したのか、メフィストに感謝を告げる。

その言葉にメフィストは不適に笑う。



「いえいえ、どういたしまして」



そして、メフィストは日吉に近づき屈み、頬に軽いキスをした。

日吉もお返しとばかりに、少し背伸びをして同じことをする。

最近ではあまりやらなくなった行為に、日吉は照れ臭そうに笑った。





こんな穏やかな日も良いものだ。





アマイモンはシロップで遊んでます。
オチが見つからなくていつものごとく強制終幕←
お粗末さまでした。






モドル








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