「おはよう、みょうじ」
「あ、おはよー福富」

教室に向かう途中で、朝練終わりの福富と会った。

「今日の部活では、よろしく頼む」
「うん、よろしく!」

今日の部活は箱学メンバー全員参加。特別コースを走ってタイムを競い合う、という練習メニューだ。
福富に交渉して、経験者である私も一緒に走らせてくれることになった。
やっぱり見てるだけじゃつまらない。それに、一度でいいから福富の走りを間近で見たかった。
……すぐ着いていけなくなるだろうけど。







「それぞれの位置に着け」
「へーい」
「お、なまえも走るのか」
「うん、楽しみー」
「この美形クライマー東堂の「よし、行きますか!」…おい!待たんかなまえ!!」

各自、自分のペースで走り出す。
後ろで東堂が何か言ってるけど気にしない。私は本来の目的である福富に着いていく。

「みょうじ、無理はするな」
「ありがと。私ね、福富と走ってみたかったんだ」
「ム…そうなのか」
「うん、ブランクはあるけど行けるとこまで着いてく!」

一緒にゴールは出来ないけど、彼の勇姿を見れるだけで気持ちが逸る。
ざあっ、と吹き抜ける風が辛く感じることはなかった。







「…大丈夫か、みょうじ」
「はぁ、…っちょっと、キツい、かも…」

息も絶え絶えに答えると、福富は心配そうな眼差しを向けた。

「スピードを落とし、少し休め」
「う、ん……っきゃあ!?」
「みょうじ!!」

一瞬の出来事だった。
重心が片側に偏ってバランスを崩し、落車してしまった。
予想以上に身体に負荷がかかっていたらしい。
立とうにも足を痛めたのか、力が入らない。ロードを止めた福富がすぐ駆け寄ってきてくれた。

「みょうじ、痛むところは?」
「足痛い…」
「分かった、後から救護班を乗せた車が来るはずだ。それを待とう」
「う、うん。ってか福富、速く行かないとタイムが!」

そうだ、今は大事なタイムトライアルの最中だ。主将である彼がこんな所で足を止めている訳にはいかない。
だが、彼は一歩もロードに戻る気配がない。それどころか、私に近付いてる。

「タイムを測るのはいつでも出来る。今はみょうじが最優先だ」
「そんな…てか、近くない!?」
「む、立てないのだろう?ならば俺が手を貸す」
「ちょ、ちょっうわぁ!?」

突然、脇と膝裏に手を入れられたと思ったらそのまま持ち上げられました。
所謂…お姫さま抱っこ。
意識した途端に顔に熱が集まり、ろくに福富の顔が見れない。

「このまま運ぶぞ」
「っうそでしょ!?や、やめてよ…!」

私の否定も虚しく、コースを逆に歩いていく福富。変な所で譲らないんだから……。
そう思っても口には出さなかった。だって、こんな夢みたいに幸せな時間をもう少し感じていたかったから。









その後、無事手当てを受けた私は福富にお姫さま抱っこされてる場面を見たヤツらにしつこく茶化されるのであった。



「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -