三國とも戦国ともつかぬ混沌の世。
荒廃の大地の中、人間が居を置く陣地。
各々に与えられた簡素な陣幕の一つ。
その陰が、約束の場所。
「──すまない、急に呼び出したりして」
小さく、地を踏む音立てれば。
ひょこり、姿現す傾き烏帽子。
己と非なれど似た存在。
凪の声を発する、異国の謀神。
「いや、構わないが…俺に何か用かな、元就殿」
「……ああ、ちょっとした、頼みがあって」
「頼み?」
問い返せば、僅か視線は外れ、俯き。
躊躇いに腕組んでは解きを数度。
「………、…触らせて、くれないか」
「……………、は?」
「君の体を、さ。興味があるんだ」
「…はあ………どうぞお好きに…」
「ありがとう!」
礼告げるや否や、両肩を強く掴み。
嬉々として腕へ手へと触れ。
「へえ、意外と、がっしりしているね」
「まあ、腕っ節も立たないと」
瞳に満ち満ちる歓喜、唇は綻んで。
胸や腹まで伝う手のひらの感覚に、頬を掻く。
千と三百年後の世へ伝わるは文字のみ。
合点して、体の力を抜き。
(…まったく、困った歴史家だ)
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