それは、遠い過去。
「呂尚、ここまで、本当にありがとう」
荒れ果てた都にはためく軍旗――周。
新しき、時代の始まり。
「この革命が成ったのは、あなたの力に他ならぬ、武王」
「いいや。…お前がいなければ、私はここまで来られなかった」
王を讃える兵たちの声。
響き渡るは蒼天。
「これからも、傍で私を支えて欲しい」
差し出された手。
血みどろの戦場を潜り抜けてきた、傷だらけの。
「王が望むのなら――…この体、朽ち果てるまで」
握った感触。
穏やかで、優しくて、あたたかくて。
「―――…殿、太公望殿、」
浅いまどろみから引き上げる声。
ゆっくりと広げた視界に映るは、大徳。
「…劉備将軍、」
「…起こしてしまい、申し訳ない」
凪のような静かさ。
眠りを妨げられても、一片も湧かない怒気。
「…して、どうかされたか?」
「あ、いえ、大したことではないのですが、」
遠く、徳に集いし将たちの賑やかさ。
す、と、差し出された手。
「民たちに桃をもらったのです。一緒にいかがですか?」
微笑みに重なった、千年以上前の記憶。
「……では、いただこうか」
握った感触。
穏やかで、優しくて、あたたかくて。
(武王、)
それはもう、遠い過去。