「三成、」
「何だ、そう、」


 ひ、の発音を遮る細長い一本。
 思わず歯を立てれば。
 ぽき、という小気味良い音。


「……いきなり何だ」
「今日はポッキーの日だ、三成」
「…………、は?」
「知らんのか?」
「いや、」


 ただ、菓子会社の策略にまんまとはまっているのが意外で。
 驚きと共に食べていく棒菓子、ぽきぽきぽきぽき。


「…ポッキーの日に、恋人同士がすることを知っているか、三成?」
「さあ?」


 恋人が持つ菓子の箱をひょいと取り上げる。
 冬季限定、ココアのくちどけ。


「ポッキーゲームだ」
「…………、は?」
「知らんのか?」
「…いや、」


 それは違うと確信。
 ポッキーゲームをやるカップルなど、見たことがない。

 となれば。
 恋人がその話題を出した理由、ただ一つ。


「お前は行事にかこつけて俺に何かしたいだけだろう」
「ああ、そうだ」
「……少しは否定する素振りを見せろ……」


 呆れながらも、二本、三本と。
 頬張っていく音、ぽきぽきぽきぽき。

 憮然と、その様を眺めれば。
 口元についた、ココアの粉。


「粉がついているぞ」
「…ひゃっ……」


 ぺろりと、舐めた口元。
 不意打ちに上がった素っ頓狂な声。

 顔を急沸騰に後ずさり。
 じりじりと距離を詰めながら舌なめずり。


「…随分と可愛い声を出してくれる」
「ち、ちが、少し驚いただけだっ!」
「……ク、まあ、何でもよい」


 一気に近づき、追い詰める。
 後ろに壁、前に恋人。


「…な、にを、」
「お前がやらんなら、私がやるまでだ」


 中途半端な長さで口にくわえられた菓子。
 歯を立てれば、ぽき、という小気味良い音。

 器用に、噛み砕きながら。
 迫る顔に、勝ち誇った笑み。

 逃げ場はなく。
 やがて訪れるゼロ距離。

 触れた唇、僅かなココアの香り。
 強く、腰を抱き寄せられた拍子に。
 取り落とした菓子の箱。

 拾わなければ、と思うは一瞬。
 次にはその存在自体を、忘れる。


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